第20話 プラーナ式戦闘術


 瞑想状態に入ったひよっこを見ていたら、隣にいた葵が口を開いた。



「いやー、ありえないっすよ。あの筋肉マッチョな精霊さんが、身体の中に入り込むなんて無理っス。無理。あたしはサブローさんみたいな細マッチョが好みで―」



「誰も葵の好みは聞いてないぞ。あとその言葉をガイアに聞かれたら、数日後に不審死してるぞ」



「冗談っすよね?」



「いいや、本当だ。あれは生命を司る精霊だからな。生物の生命活動に色々と影響を与えるぞ」



 葵はガイアを体内に宿したひよっこを見て、ガクガクと震えた。



 葵の場合、ガイアが肉体の貧弱さを嫌って寄り付かんだろうけどな。



 あいつは男でも女でも健康で頑健な身体を好む。



「マジむりっす。おかめちゃん、すごいっすよ」



「視聴者も変死したくなかったら、ガイアには敬意を払ったコメントをよろしく頼む。精霊はそこかしこにいるからな」



 俺の言葉にコメント欄が『ガイア様の筋肉素敵! 惚れちゃう!』とか『ガイア様サイコー!』といった賞賛一色に染まった。



 みんなも変死はしたくないらしい。



「おっと、おかめちゃんの身体が、仁さんたちと同じように光をまとってるっす!」



「ほぅ、最初からガイアを知覚して、その力を取り込んだか」



「マジかよー。オレたちけっこう時間かかったっすよ」



「おかめちゃん、ド初っ端からやってくれるわー」



「まだまだ、オレらの方が力を引き出せるはず」



 ガイアの力を取り込んだ証拠である、プラーナの光をまとったひよっこに無言で3人をけしかける。



 3人は頷き返すとプラーナをまとい、動かないひよっこに向け、同時に攻撃を開始した。



「ちょ! サブローししょー!」



「黙って見てろ」



 葵を制止すると、ひよっこが3人の攻撃を見事にかわしていく。



 コメント欄が『動きが変わった!? さっきと全然違う!』とか、『目が追いつかない』といったもので溢れる。



 ひよっこのやつ、ガイアの力をさっそく使いこなしてやがるな。



 だが、仁たちは俺が仕込んだ連中。



 簡単にはやらせんよ。



 攻撃をかわされた3人は、それぞれが別のタイミングを測って、時間差をつけ、ひよっこに再び挑みかかる。



 仁、誠、隆哉の時差3段階攻撃は、さすがにひよっこでもかわせまい。



 ひよっこは仁の下段蹴りを避け、誠の拳をいなしたが、隆哉の肉壁を避けられずに吹き飛んだ。



「ガイアの力はすごいです。これがプラーナ式戦闘術。身体が思い通り以上に動く」



 立ち上がったひよっこは、3人に再び挑みかかる。



 先ほどよりもさらに速度も鋭さも増した蹴りや拳が、3人に降り注いだ。



「プラーナ初体験のおかめちゃんに、やらせるわけにはいかないっすよ」



「兄貴、押されてるぞ」



「仁、誠、おかめちゃんを好きにさせるな!」



 ひよっこと3人の戦闘を撮影どろーんが配信し続ける。



 コメント欄では『おかめちゃん、サブロー軍団倒せ!』とか『サブロー軍団、さっきの威勢はどうした!』といったものが流れていく。



 ひよっこと3人の戦闘は長く続くと思われたが、終わりは突然訪れた。



「おかめちゃん!? ストップ! ストップっす!」



 突然、糸の切れた人形のようにひよっこが地面に倒れた。



 まぁ、いきなりガイアの力を使いまくれば、生命力を使い切って、気絶するわな。



 俺は倒れたひよっこに近寄ると、自らの生命力を分け与えてやる魔法を急いでかけてやった。



「はっ!? はぁ、はぁ……何が起きて……」



「調子に乗ると、そうやって生命力を使い果たして気絶する。ガイアも生命力全部は搾り取らんから死ぬことはないが、魔物の目の前で気絶すれば、どうなるかおかめも分かるだろ?」



「魔物の前で気絶すれば、命はない……ですね」



「そういうことだ」



「よい子のみんなは真似しないようにっす! プラーナ式戦闘術は身体能力が劇的に引き上げられるっすけど! ガイアさん、わりと厳しい精霊さんっすからね! おかめちゃんみたいになるっすよ!」



 ひよっこの身体からにゅっと出てきた生命の精霊ガイアは、撮影どろーんにニカッと笑いかけると、そのまま飛んで消えていった。



 コメント欄は『やべー、ガイアさん半端ねぇ』とか『ガイアさんの力はスゲーけど、機嫌損ねたら速攻死ぬ件』といったものがものすごい速さで流れた。



「というわけで、プラーナ式戦闘術の講義は以上だが、日々の鍛錬を続ければ、ガイアも力を貸してくれる時間や消費する生命力も減らせるようになる。そうなったら、俺みたいにクリスタルゴーレムを拳で粉砕したり、エンシェントドラゴンを一刀で断ち切るようにもなれるってことだ」



「この力が思うように使いこなせるようになれば……」



 仮面の奥に見えるひよっこの目に、戦士を目指す者の輝きが戻った。



 精霊の力を使い、魔法も身体能力も向上すれば、ひよっこは戦士モドキから戦士になれる。



 一級品の戦士にだ。



 それくらいの戦闘経験は積んでいる。



 あとは本人がどうするべきか、決めればいいだけだ。



「さて、今日の鍛錬は終わりだ。仁、誠、隆哉。お前らは居残り練習な。まだまだ鍛錬が足りん」



「ういっす!」



「初日のおかめちゃんに、あれだけのことをやられたらサブローさんの弟子としてはもっと頑張らないと!」



「負けねぇ!」



 3人もひよっこの素質に触発され、さらなる修練を重ねることに積極的になったようだ。



 いいライバルができたってことで、両方にいい効果が起きたと思うとしよう。



 ひよっこは社長業のスケジュールが詰まっていたため、配信終わりで会社に戻ったが、俺と葵は3人の鍛錬に日暮れまで付き合うことにした。

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