第6話 戦士の鉄則


「君のチャンネルが今どうなっているか理解をしておるのかね?」



「よく分からん。俺は葵に『ハイシン』しろって言われて、ダンジョンの中で『ハイシン』をしてただけだからな。それよりか、この扱いはどういうことだ? 俺は犯罪者か何かか?」



 唐揚げがチンされるのを待ち望んでいた俺であったが、血相を変えた葵に手を引かれるまま、東京ダンジョンの入口近くに作られたダンジョンスターズ本社の社長室に来ていた。



 俺の目の前には、高級そうな椅子に腰をかけたダンジョンスターズ社の社長氷川武ひかわ たけるという壮年の男がこちらを睨みつけている。



 道中で葵から、俺がダンジョンスターズ社に呼び出されていたらしいとは聞いているが――。



 どうやら歓迎されているという様子ではなさそうだ。



 俺たちの退路を塞ぐように、十数名の体格のいい男たちが背後に立っている。



 葵からは神妙にしろと言われてるが、どう見ても向こう側は敵対的なので、自身の身の安全は図った方がよさそうだ。



 一人一人は大したことはなさそうだが、葵を守りながらとなると、少し面倒なことになりそうだな。



「佐藤三郎君。君は視聴者から、配信映像を加工したという通報が大量に来ている身だと自覚したまえ。配信者の規約に映像加工の不可はうたってあるはずだが、当然知っているはずだが」



『エイゾウカコウ』とは何だ? 『ハイシン』自体、俺はどういう原理なのかも理解してない。



 葵に言われたとおりにやってただけなのだが。



 隣にいる葵に状況を聞こうと顔を向けるが、彼女は真っ青な顔をして身体を震わせている。



 あの口うるさい葵が珍しく怯えているようだ。



「知らんな。聞いた覚えもない」



「配信免許交付の際、座学講習があったと思うが?」



 そんなのがあった気がするが、興味がなくて半分寝ていたので、規約云々の話は聞いた覚えはなかった。



「社長に向かって、その口の利き方はなんだ!」



 背後に控えていた男たちが殺気を放ってくる。



 振り向くと、一気に駆け寄り、男のみぞおちに拳を打ち込み、戦闘不能にした。



「死にたくなかったら、俺に殺気を向けるんじゃない」



「はわわ! サブローさん、マズいっすよ! 逮捕されちゃいますって!」



「大丈夫だ! 先に殺気を放ったのはあっちだからな! それよりか、そこを動くな! 光精たちよ、我が呼び声に応え、他に見えざる障壁となれ! 不可視の障壁インビジブルバリア!」



 俺の呼び出した精霊たちが、環境の悪さに多少キレ気味ではあるが、問題になるほどではないな。



 騒ぐ精霊たちを宥めると、魔法が発動し、見えない障壁に包まれた葵に近づける者はいなくなった。



 よし、これで連中は葵に近づけないはずだ。



「この社長室で魔法だと!? Sランク探索者の魔術師でも発動させられないようアンチマジック対策を施してる部屋なのに!」



 男たちはびっくりした顔をしてるが、こちらの魔法が発動できなくさせるほど、連中が魔法封じに使ってる風の精霊ジンは強くない。



 男の一人が胸元から筒を取り出し、こちらに向けてくる。



 あれはたしか銃って武器だったな。



 筒先が光ったかと思うと、金属の弾がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。



「そんなのが、戦士の中の戦士として、勇者に任じられた俺に当たるとでも思うのか?」



 金属の弾を摘み取ると、放った男に向けて指弾でそれを弾く。



 金属の弾は男の銃を弾き飛ばした。



「ば、ばけものか!」

 


「コードレッド! コードレッドだ! 警報鳴らせ!」



 苛立った顔をした社長の氷川武が、男たちを怒鳴りつける。



 すぐにけたたましい音が建物全体に鳴り響いた。



「サブローさん! 犯罪者にされちゃうっす! しゃ、謝罪しましょう! サブローさんが無理なら、あたしが謝ります! あたしのせいでこんなことになったんだし」



「うるせぇ。うるせぇ。売られた決闘を買わないのは戦士の名折れ。徹底的にやらせてもらう」



「サブローさん!」



 別の男が懐から銃を取り出そうとした。



 近くにあった応接用のテーブルを投げつけ怯ませると、素早く間合いを詰める。



 がら空きの脇腹に軽い一発をお見舞いしてやった。



「げふぅ! つええ……」



 部下の男が崩れ落ちるのを見た社長の氷川武の顔色が青く染まる。



「こいつらは、特性を持たないオールドジェネレーションだとはいえ、あの戦争を生き抜いた精鋭の軍人たちだぞ……。それをいともたやすく倒すとは。本物のばけものか」



「戦士でない者との決闘だから手加減してやっている。それに俺が剣を持ってこなかったことに感謝するんだな。剣を持ってたら、今頃は身体が真っ二つになって床に転がっているぞ。まだ、やるか?」



 扉が急に開くと、武装をした男たちが長い銃をこちらに突き付けてきた。



「降伏しろ! さもなくば射殺する!」



「地精たちよ。我が呼び声に応え、金色の盾でこの身を包め! 守護者の盾ガーディアンウォール!」



 魔法が発動し、床が盛り上がると、周囲の金属成分を集め始める。



 すぐに大きな盾となって、俺の周囲を飛び回り始めた。



「戦士は降伏などしない!」



 拒否を伝えると、武装した男たちがこちらに向けた銃口から光が迸った。



 飛んでくる金属の弾に反応して、周囲に飛んでいた金属の盾が俺を守るよう忙しく動き回る。



 こちらに向かって飛んだ銃弾は、金属の盾に防がれ乾いた金属音の反響を残し、すべて弾き返された。



「はわわ! サブローさん、やりすぎっす! で、でもチョー強くってかっこいい……。いやいや、そんなこと言ってる場合じゃなかった! サブローさん、落ち着いてくださいっす!」



「あとで聞くから、黙ってそこにいろっ! 今はあいつらを制圧するのが優先だっ!」



 素人の葵が、ギャーギャー騒いでいるが、攻撃性の高い敵を放置しておくわけにもいかない。



 とりあえず連中を制圧し、こちらが優位に立っていることを理解させ、交渉に入るのが鉄則だ。



 向こうの世界の馬鹿貴族どもにも、何度も同じような決闘をふっかけられたが、この方法が一番効率的に相手を説き伏せられ、こちらの言うことを聞いてもらえたんだから間違いはない。



 銃をこちらに向けたやつに向け、一気に間合いを詰めると、殺さないよう軽い一発で無力化させていく。



「増援! 増援を呼べ! 探索者もだ!」



 社長が怒鳴りつけている間に、部下たちは俺の前になすすべもなく無力化されていく。



 探索者らしき装備を付けた連中も姿を現したが、ひよっこ以下の実力しかなく、俺に一撃も食わらせることもできずに床で寝ることになった。



「ばけものすぎる! お前、本当に人間か?」



 氷川武が、部下や探索者たちの様子をみて、悲鳴のような声をあげた。



「失礼なやつだな。人間に決まってるだろう」



 向こうの世界でも、決闘に負けそうになった馬鹿貴族が同じような言葉を口にしていたが、こういった言葉は異世界でも共通してるらしい。



 人に面と向かってばけもの呼ばわりするのは、礼を失する行為だと親から教えられなかったのだろうか?



 俺は育ての父アルベドにかなり厳しく躾けられたので、そのあたりの礼儀はきちんとわきまえてる。



 礼を失する行為をするやつは、殴って言い聞かせろと言われているので、そうさせてもらってきた。



 なので、今回もそうさせてもらう。



 ゆっくりと振り返り、拳を鳴らしながら、氷川武のもとへ向かう。



「悪いが俺は相手がどれだけ偉いやつでも、礼を失する行為をしたやつに忖度はしないぞ。歯をくいしばれ」



「サブローさん! 殴っちゃダメですって! 免許停止どころか、けーさつ沙汰ですって!」



「先に殺気を放ったのは、こいつらだから問題なし」



「それは、通じないっすよ! サブローさん、正気を取り戻してくださいっす!」



 葵は、何気に戦士たる俺に対し、失礼な言葉をぶつけてくるな。



 性別上の女であるから、父母の教えに従い、決闘を申し込まないが、男だったら二〇回くらいは申し込んでいるところだ。



「あー、あー、聞こえない。葵が何言ってるか聞こえないぞー」



 葵の制止を振り切るように、聞こえないふりをする。



「いやいや、聞こえてるっすよね! 聞こえてるはずっす!」



「あー、あー、聞こえないぞっ!」



 殺す気はないので、軽い一発をお見舞いさせてもらい、こっちの話を聞いてもらうとしよう。



 握った拳を氷川武に向け繰り出す。



「ひぃっ!」



「お待ちください!」



 俺の拳を受け止めたのは、黒髪の若い女性探索者だった。



 昨日の痛いひよっこか。



 たしか、氷川ゆいなって名前だったな。



 痛いひよっこではあるが、他の有象無象の連中よりは鍛えがいはあるといったところか。



 手加減していたとはいえ、俺の拳を受け止められるとは、それなりに修練はしているらしい。





――――――――――――――――


あとがき



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