Side:火村葵 配信バズ
※火村葵視点
アパートに戻ると、サブローさんはウキウキした様子で唐揚げを電子レンジで温め始めた。
「サブローさん。先に買い物してきたやつを冷蔵庫に入れておいてくださいっすね」
「あー、はいはい。そこ置いておけ」
サブローさんの足元に買い物袋を置く。
「あと唐揚げ、あたしのも残しておいてくださいっすよ。スマホ充電してくるんで」
「おう、分かった。分かった」
もうすでにお昼ご飯に夢中になったサブローさんは、あたしに見向きもせず、生返事を返してくる。
本当にご飯の時は、ご飯にしか興味がなくなるのを見てると、子供みたいで可愛いすぎ。
これが母性本能をくすぐられるということかもしれないっすね。
出会った時も全裸の衝撃より、不安な表情を見せたサブローさんが見捨てられなくて、家に連れてきちゃったわけだし。
おかげでいろいろと苦労はしてるけど、サブローさんの笑顔を見られたら気にならない。
滅多に笑わないっすけど、不意に見せる笑顔ってやつが、あたしの心を捕らえて離さないってやつっす。
皐月叔母さんからは、婿にすればと言われるけど、まだ未成年だし、不安定な生活なので、結婚とかは考えられないっすよ。
せめて、探索配信者とかで人気配信者になってれば別っすけど、サブローチャンネルは登録者1人しかいないからなー。
そんなことを考えながら自室に戻って、スマホを充電しようとしたら、サブローさんのスマホが置きっぱなしになっていた。
昨日、説教した時、充電しておくって言ったまま、渡すの忘れてた。
テーブルの上にあったサブローさんのスマホを手に取る。
先月、特性持ちだと発覚したサブローさんに配信者活動してもらうため、皐月叔母さんに無理を言ってローンで買ってもらったスマホ。
撮影ドローンやコメントを表示する単眼ARグラスもセットして20万近くした高級品だ。
今月から皐月叔母さんへのローンの支払いが始まるけど、現在のあたしの貯蓄額から見て、けっこうヤバいっ感じ。
今日の臨時収入は、支払い用に貯めておかないと。
サブローさんのスマホを見ていたら、自分のスマホが振動する。
ん? メッセージ? ダンジョンスターズ社からだ!
なになに、『サトウサブロウ様のアカウントが停止中です。本日中に、ご本人を連れ、ダンジョンスターズ本社までお越し下さらない場合、配信免許と探索者免許の失効を行います。民事訴訟の用意も進めておりますので必ず来訪されますように』って、どういうこと?
サブローさんの免許失効? なんで、そんな連絡があたしに来るの?
あ!? サブローさんのチャンネル免許申請書の別途連絡先にあたしのスマホ番号入れてからだ!
慌てて充電してあったサブローさんのスマホの電源を入れた。
スリープじゃなくて、電源まで落としてある!? サブローさんめ! いつも電源落とさないでって言ってるのに!
起動したスマホが、ぶるぶると震え続けてる。
な、なんすか! これ! 通知が止まらないっす!
濁流のようにチャンネルフォローやコメントの通知が流れ続けて、スマホはずっと振動したままだった。
やばい、やばい、これってバズってるってやつだよね! サブローチャンネルがバズってる!
何が起こったのか分かんないっすけど、バズってる!
「サ、サブローさん! 大変です! 大変! 唐揚げなんて食べてる場合じゃないっすよ!」
「何が大事なのか知らんが、今の俺は唐揚げの方が大事だ! 後にしてくれ!」
台所から何も知らないサブローさんののんきな返答が返ってきた。
これだから超マイペースな人は困るっすよ!
はわわ!? 着信履歴にダンジョンスターズ社から鬼電入ってるっす! これって、着信に出なかったから、別途連絡先だったあたしに連絡が来たパターンっすか!
メッセージ確認しないと、何が理由で呼び出されてるのか分かんないっす。
通知の濁流でスマホの反応が遅くなった中、必死でダンジョンスターズからのメッセージを探していく。
あった! これだ!
通知を切って、ようやく見つけたダンジョンスターズのメッセージを開いた。
『配信された動画に不適切なシーンがありましたので、非公開処置をしております。それと、映像加工をしているとの通報が相次いでおりますので、事実の有無を報告してください』
『再びのメッセージ失礼します。ご連絡がないようですが、ご不在でしょうか? 早急の返答をお願いします』
『ご返答はありませんでしょうか? このまま、こちらへの返答がなければ、別途連絡先として登録された方へご連絡をさせてもらいますがよろしいでしょうか?』
『ご連絡がありませんので、別途連絡先の方へご連絡差し上げます。事実とは異なる映像を配信したということで、ダンジョンスターズ社に来訪して弁明をされなければ、免許は失効します。民事訴訟の準備も進めておりますことも併せてご連絡させてもらいます』
やべーっす! ダンジョンスターズ社が激おこっす!
すぐに自分のスマホをスワイプして、Tチューブのアプリを起動させた。
「はっ!?」
トレンドランキング、チャンネル登録者ランキング、掲示板スレ、全部サブローさんとかゆいな嬢とかで埋まってる。
エンシェントドラゴンを公式に討伐したのが、なぜかゆいな嬢になってて、それを誰かが否定する動画とか画像上げて、サブローさんがやったことだと認知されてバズってるんだ!
激やば案件じゃないっすか! こんなのダンジョンスターズ社がキレまくるっすよ! 公式発表が虚偽だってバレたみたいなもんだし!
顔を出しても免許剥奪、顔を出さなかったら損害賠償とかってパターンかも!
ダンジョンスターズ社に目を付けられたら、配信者としても探索者としてもオワリっす……。
土下座してでも許してもらわないと、サブローさんの配信チャンネルがbanされてしまう。
日本一、いや世界一の配信者になれる素質を持ってるサブローさんから配信を取り上げられるわけにはいかないっす!
あたしは、サブローさんのスマホと自分のスマホをポケットに入れると、台所で唐揚げが温まるのを待っている彼のもとに向かった。
「サブローさん! 緊急事態っす! 唐揚げはお預け! 買ってきた物を急いで冷蔵庫にしまったらダンジョンスターズ社に行くっすよ!」
「は? 何を言っているんだ! 唐揚げだぞ! 俺がどれだけ我慢したか―――」
「帰りにチョコバー買ってあげますから! ほら、早く準備してくださいっす!」
「葵、その言葉に嘘はないな?」
「ないっす! ないっす! 早く行かないとサブローさんの人生が終了する一大事っすから!」
「言ってる意味が分からんが――」
あたしは電子レンジを停めて、中の唐揚げと買い物袋の中身を冷蔵庫にしまい、首を傾げるサブローさんの手を引いて、東京ダンジョンの入口の近くにあるダンジョンスターズ本社に向かった。
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