第4話 スーパータカミ
「最近、ようやくこの辺りにもコンビニができたっすけど、まだまだ荒れ地っす。学校の近くの方がまだマシっすね」
「毎度外を歩くたび思うが、ダンジョンができる前は、この辺りが国の中心地だったというのは本当なのかって思うな」
視界に入るのは、半壊した建物や大きく窪んだ土地がそこかしこに見えた。
葵の話によれば、ここは国の首都で『ながたちょう』と言われ政治の中枢だったそうだ。
『ながたちょう』の中心地にある『こっかいぎじどう』とか言われる場所に、突如として光の柱が立ち昇り、俺が昨日探索した東京ダンジョンができたそうだ。
その時、国家の指導者層は一掃され、続く魔物との戦闘ではかなり混乱したそうだが、『じえいたい』と『ちじ』が合議して、何とか国家を維持して今に至っているらしい。
魔物との戦いでは、葵の住むこの日本全土でも多くの人が亡くなり、彼女の両親も犠牲者となったそうだ。
両親の死後は、叔母が後見人となり引き取って、この地で暮らしていると聞いた。
「25年前の話っすからねー。あたしは、今17歳だし、小っちゃな子供の時は別の街に居ましたから、ここら辺の昔話はバイト先の人からの受け売りっすよ」
「ここはたしか特別管理地域と言われてるんだったか?」
「そうっすね。ダンジョンがあり、害獣が外に出てくる可能性が極めて高い地域。おかげで、貧乏なあたしでも叔母さんに迷惑かけることなく、アパートの部屋が借りれているわけっすよ。家賃は相場の10分の1っすからね。だから、変な連中も多いっすけどねー」
この地域には探索者だけでなく、他の街で食いつめた素行の悪い連中が集まってきてるとか言ってたな。
だから、葵のバイト先のスーパータカミでも、ガラの悪い連中が来たことがあって、俺がぶちのめしたわけだが。
おかげでスーパータカミの店長である葵の叔母からも、いろいろとよくしてもらっている。
あそこのお惣菜の唐揚げは絶品なので、今日も売れ残りがあったら譲ってもらいたいところだ。
唐揚げの味を思い出し、口の中に唾液が湧くが、グッと我慢をすることにした。
「今、
「そんなわけあるか! さっさと行くぞ!」
「はいはい、急がないと特売のお肉なくなっちゃうっす!」
肉を確保できないのはマズい。これは急がねば!
葵ととともに、スーパータカミに向かう道を全力で駆け出した。
周囲の半壊した建物群とは違い、綺麗にならされた土地の中に、ポツンと一件だけ大きな建物がある。
建物の上にある看板には、大きく『スーパータカミ』と書かれ、特売目当ての客が行列を作っていた。
「あちゃー、出遅れたっすねー。整理券もらえるか微妙なところっすよ。帰ります?」
行列の長さを見た葵から、諦めの気配が漂う。
戦士たる者、目的を達成する前に、困難だと悲観して諦めるなんてことはできない!
「可能性があるのに、目標達成を放棄することはできん! 葵、並ぶぞ!」
「ですよねー。サブローさんなら、そう言うと思ったっす!」
敗色濃厚ではあるが、奇跡は挑戦せねば起こせないのだ!
行列に並ぼうとすると、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「サブローさん、葵ちゃん、いいところに来てくれたわね!」
声の主は、スーパータカミの店主兼お惣菜部門担当者である
つまり、あの絶品唐揚げの作り手であり、葵の叔母。
「鷹見さん、どうした? 唐揚げのお礼もあるし、俺にできることなら何でもするが」
「サブローさん、皐月叔母さんのお願いは素直に聞くんすかー。あたしのお願いも少しは聞いてくださいよー」
「葵は俺に説教する分、差し引いているだけだ」
「くぅぅ! サブローさんが反抗期っす! 皐月叔母さん、どうすればいいんすかー」
「あらあら、いつもの二人はラブラブねー。わたしにも旦那とそんな時代があったからしらねー。でも、サブローさんは葵ちゃんの用心棒だから同棲を許してるんだからね。だから、まだ未成年の葵ちゃんに手を出しちゃだめよ」
葵とは別に男女の関係ではないし、どちらかというと飯と寝床を与えられることで、主従関係を強要されている気しかしない。
右も左も分からない異世界で、なんとか暮らしていくための方策として、葵との共同生活というのが、現実的であるため苦渋の決断をして今の生活を耐え忍んでいるのだ。
「鷹見さん、葵のことは放っておいて、俺たちに頼みたいこととは?」
「ああ、そうだった! サブローさんには、行列整理。葵ちゃんには、中で総菜作りのお手伝いを頼みたいの。今日のシフトの子が熱出してお休みでね。人が足りてないの。お願いしていいかしら? もちろん、時給は払うし、唐揚げと、特売のお肉は確保してあげるわよー」
俺はすぐに鷹見さんの手を取ると、頭を激しく揺らし頷く。
「任せてくれ! 並ばせるのは得意だ! 任務を遂行する!」
鷹見さんから特売用の整理券を受け取ると、並んでいる者たちへ列を整えるよう声をかけた。
「ここは俺がなんとかする。葵はすぐに鷹見さんの手伝いを!」
「承知っス! 皐月叔母さん、ここはサブローさんに任せて、総菜作りましょう!」
「ありがと、助かるわ」
葵が鷹見さんの手を引いて、スーパーの中に消えると、残った俺は続々と集まってきた客を列に並ばせ、整理券を配布していった。
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