n度目の出会いを

赤猫

生まれ変わっても君ともう一度出逢いたい

ここで死んでしまおうか?

そう俺の隣で笑う少女は綺麗だった。


「死ぬなんて、言うなよ」


そう俺は、普通の死ぬ人を止めるために言うセリフを言う。

いつも俺と彼女がこの丑三つ時に会って俺の隣に座って来ては、最初にいつも死んでしまおうかと俺に問うてくる。


「あは、冗談だよ?んもう君はいつもそうやって私の言葉を本気にするんだからー」


つんつんと俺の頬を突く彼女は楽しそうだ。

この関係も長い事で五年が経過している。

彼女は毎日夜に廃墟にいた。

俺はどこかで一人になりたくて廃墟に辿り着いた。

偶然出会って名前も知らない彼女と話したい時に話すという時間は救いだった。


「君はさ、いつもここに来るよね…大丈夫?親御さんとか?」

「そのセリフそのままそっちに返すわ」

「私の親は、夜の仕事してるからバレないんだよぉ?」

「なんだそれ…俺の親は俺の事に興味とかないから」

「寂しいこと言うね」

「事実だから仕方ない」


俺の両親はどうしようもないくらいのクズだ。

母も父もお互いに俺の知らない異性に貢いでいる。

それでも過程として成り立っているのだから不思議な事だ。

俺はそのせいでバイトをかけ持ちして生活している。

必然的に俺は高校に入ることはなく中学校で学生生活に幕を下ろした。


「今は幸せ?」

「幸せだったらここに来てない」

「私は幸せだよ誰かが隣にいてくれて」


彼女は俺の存在を認めてくれた。

それだけで俺の空っぽで欠けている俺の心の小さな瓶の中身が満たされていく。

これを幸せというのだろうか?


「俺もお前と一緒にいさせてくれ」

「…なんで?」


ここでちゃんと伝えないと俺は《彼女に救われて自分だけ幸せを掴みそうになりそうな気がする》。


「…っ、お前!俺がいなくなったら死ぬつもりだろ!」

「君には…私のこといつも見透かされちゃうね」


そう笑う彼女の顔は、今にも泣き出しそうだった。

今にも消えそうなそんな儚さを感じた。

俺は手を伸ばして彼女の手を握った。


「一緒に俺も行く、一人にさせないだから…ほら」


俺は格好のつかない震えている手を彼女に差し出した。


「馬鹿だなぁ…私の事なんて放っておけば良いのに…生きがい見つけて長生きしなさいよクソガキ」

「お前もクソガキだろうがばーか」

「次、生まれ変わっても君と会いたいなぁ…」

「良いよ約束な」


俺の返答に彼女は目を見開いた。


「今の事覚えてるとは到底思えないけど…普通生まれ変わるってそういうことだし…」

「ほら最近の漫画とかでさあったんだよ、転生とかしても前世の記憶引き継いでるやつ」

「それはお話の中だけの話であって…」

「うるさい黙れ、信じてたら何とかなる」


そういう非現実的なことを信じるのは今日だけだ。

俺も彼女と同じでもう一度会いたいって心の底から願っているから。

今まで辛かった事ばかりの人生だ、神様だってドケチではないきっと俺たちの願いくらい叶えてくれるに決まってる。そうでないと俺たちが報われない。


「手、離すなよ」

「どうしよっかなー?」


ヒュウと冷たい風が吹く廃墟の屋上に俺たちはたっている。

高さ的には痛いじゃ済まないレベルだ。

落ちたら死ぬのは確実。

それを確認して俺は、彼女の手を強く握った。


「そういえばさどうやってお互いの事確認するの?」

「どうすっかな、考えてなかった」

「わかったよじゃあ私が君に質問します」


彼女はフッと短く笑って俺を見つめる。

俺の心臓はドキリと高鳴った…ような気がした。

これから死のうとしようとしてるのに心は正直だ。


「今、幸せ?って」

「俺はどう返せばいい?」

「君の思ったことを言って、私はそれで判断する。大丈夫だよ君がこの質問をした時に決まって一番わかりやすい顔をするから」

「はぁ?」


そんなに分かりやすい顔してるか?と思って俺は自分の顔をぺたぺたと触る。

そうすると彼女はお腹を抱えて笑った。


「うん…うん!君はそのままの君でいてね」

「お前もな」

「ありがとう、一緒に逝ってくれて」

「ありがとう、俺と一緒にいてくれて」


君とそう言って笑って飛び降りた後の記憶は真っ暗だ。

ただ最後に触れた温もりだけはハッキリと覚えている。


───


俺の願いは、無事に成就した。

死ぬ前の記憶を持って生まれ変わることができた。

今の人生は普通の家庭に生まれて暖かい両親の元で生活をしている。

高校にも通わせてもらっていて「俺、高校行っていいの?」と聞いた時には「当たり前でしょう?!」と驚かれたくらいだ。

俺は自分でも疑うくらい普通の生活をしている。

その度に俺の頭によぎるのは君の顔だ。


一度だけもしかしたらいるかもしれないと思って、中学生の時に廃墟に行った。

その時には白骨化の死体が二つ並んでいた。

生前の俺と君の死体だった。

自分の死体を見るのは、なかなかに不思議な光景ではあった。

前の家族はどうしているのだろうか、とかを自分の死体を見たら考えてしまった。

最後に別れの言葉くらい一応親なのだから伝えれば良かったのだろうか?という気持ちが湧いてきた。


「行ってきます」


この言葉を言うことも今では当たり前になった。

「行ってらっしゃい」と返してくれる人がいることは未だに慣れないが嬉しく思っている。

暖かいご飯を家族と食べた時は号泣して今の家族を困らせてしまった。


人間関係も良好、成績もいい感じ中の上くらい。

俺の二度目の人生は我儘を言わなければ幸せだと思うくらい良いものになっている。

だけど彼女には会えない。

名前を知らない一緒に心中した君の面影をした人間は、どこにもいない。


俺は、毎日とはいかないが、休みの度に寝静まった家を出ていつもいた廃墟に向かっている。

自転車で三十分とするが、それくらいの労力はどうということは無い。

ぜぇはぁと自分の荒い呼吸が静かな夜にはっきりと聞こえる。

でも止まることはせずに必死にペダルを漕ぎ続けた。

ただ会いたくてもう一度俺は、あの笑顔を見たいから。


「はぁ…っはぁ…」


流石に疲れた。

全力で途中から急な坂があったせいで足がパンパンだ。


「…誰?」


廃墟の入口から人がひょっこりと顔を出した。

その女の子は、警戒心剥き出しで俺を怪訝そうに見ている。


「えっと、会いたい人がいて…それでここに来てるんだけだから、その…君に何がするとかそういうのはないから、大丈夫だよ」

「…私もどうしてか分からないけど、誰かを待ってる気がするの」


こっち来たら?と素っ気ない声で女の子は俺を廃墟に入れてくれた。

俺たち以外にも人ってここに来るものなんだなと思った。


「君の名前は?」

「教えない」

「じゃあ、なんて呼べば…?」

「好きに呼びなよ」

「好きに呼べって…じゃあ、みっちゃん?」

「は?由来は?」


何となくパッと思いついたのがみっちゃん。

理由は単純、丑三つ時に良くここに来るからそれを略して可愛くしたらこうなってしまった。


「今、丑三つ時だから、後は俺の会いたい人とはいつも丑三つ時に会ってるから」

「丑三つ時って何時?」

「夜中の二時から二時半の間だと思うけど…」

「そうなんだ、私また賢くなっちゃった」


女の子は嬉しそうにふにゃりと笑った。

その笑顔に俺は懐かしさを覚えた。


「今、幸せか?」

「幸せだとは思う、だけど…寂しいかな…誰かを忘れている気がして」


…迷っている君の姿はあの時見た男の子と重なった。

でも君は覚えていないんだよね俺(わたし)の事。

寂しくて胸がキュウっとする。

神様は意地悪だ。

俺の願いを何一つしか叶えてくれなかった。


前の記憶を持って君と俺がもう一度出会うという願いは叶わなかった、叶えてくれなかった。


悲しいなぁ辛いなぁ…君にやっと会えたのに。

待ち焦がれていたのに、こんな結末誰が予想したのだろうか?


「大丈夫?」

「へ?!…大丈夫!」

「そう?悲しそうな顔してるから、私がなにかしてしまったのかなって」


君は、本当に良く私の事を見ているね。

でも知らなくていいんだよ、知らない方が君は前の人生よりきっと幸せだと思うから。

俺(わたし)のように過去の傷を背負う必要はないんだよ。

君はもう自由なんだから。


「じゃあ俺帰るわ、君は帰る?途中までなら送っていくよ」

「そう、だね。帰らないとお母さんとお父さんがびっくりしちゃうだろうし」

「もうここには、来るなよ」

「どうして?」

「女の子がこんな遅い時間にここにいたら誰かに誘拐されるぞって事」


それは嫌だなでも…と、考えるような仕草を彼女はしている。


「私は、ここで誰か知らないけど待ちたい。会いたいから」

「来なかったらどうするんだよ」

「ずっと待つよ、だってまた会いたいんだもの」


曇りのない綺麗な瞳で笑って彼女は言った。

それは最後に見た時と同じ笑顔だった。


「会えると、良いな」

「ありがとう…またどこかで会えたらその時は、また隣座りなよ」


夜の風が冷たく感じるけどどうしてか暖かく感じた。




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