第5話

「誰かいませんか!?」



廊下では美樹が声を張り上げ、別の部屋を探してくれているようだ。



「なんで誰もいないんだ?」



小さな家を探すのは簡単なことだった。



トイレ脱衣所キッチン、すべてを探しても春香の両親はいなかった。



春香の部屋に戻ってきた慎也が深刻そうにつぶやく。



「それなら警察!」



佳奈が震える手でスマホを操作する。



すぐに110番に電話を入れるが、呼び出し音が聞こえてこない。



番号を間違えただろうか?



もう1度、冷静に緊急ボタンを押す。



やはり結果は同じで呼び出し音は聞こえてこない。



しばらくなにも聞こえない状態で待ってみたけれど、状況は変わらなかった。



「なんで警察は出ないんだよ!?」



その後慎也と美樹が同じように警察に連絡を取ってみたが、結果は同じだった。



絶望的な気分とわけがわからない恐怖心が胸の奥から湧き上がってくる。



自分たちは一体どうしてしまったんだろう?



ここは一体どこなんだろう?



普段は感じない疑問が次から次へと浮かんでくる。



それほど異様な状況がそこに存在していた。



「少し冷静になろう」



そう言ったのは明宏だった。



明宏はゴクリとつばを飲み込んで部屋の電気をつけた。



今の今までパニック状態だった5人は、電気をつけるというごく当然なことすら忘れていたのだ。



パッと明かりがついてそのまぶしさに一瞬目の前が白くなる。



それもすぐに慣れた。



ベッドへ視線を向けると首の断面が見えて、佳奈はすぐに視線をそらした。



首の断面も夢で見たのとほぼ同じだ。



首だけパカッと外されてしまったかのように、キレイに切断されている。



間違ってもノコギリやチェンソーなどで切断されたのではないと、素人目にも理解できる。「これから僕たちは警察に行く。それで事情を説明するんだ」

明宏はまるで自分に言い聞かせるように説明を始めた。



「わかった。そうしよう」



青い顔をした大輔が頷く。



「夢の中の影は首を探せと言ってきた」



2人の会話を遮るように言ったのは慎也だった。



顔色は悪いものの、目の前の現実を受け入れようとしているのが見て取れた。



「だからなんだよ!?」



明宏が珍しく苛立った声を上げる。



警察へ行く話におちつきたかったのだろう。



佳奈には両方の気持ちが理解できた。



だって、こんなのまだ夢を見ている気分だ。



「じゃあこうしようよ。警察署へ向かいながら春香の首を探すの。それなら、同時にできるでしょう?」



佳奈の提案に2人は渋々といった様子で頷いた。



ここで喧嘩をシていても事態はよくならない。



もっと悪化していくかもしれない。



とにかく今は外へ出ることだ。



そう決断して、5人は入ってきた窓から外へ出たのだった。


☆☆☆


外の空気は家を出てきたときよりも重たくなっていた。



きっと、春香の死体を目撃してしまったことが原因だ。



春香の家を出た5人は無言のあまま歩き出した。



目的地は警察署だ。



警察に行けばきっとすべてがうまくいく。



そう思おうとしているのに、佳奈の思考回路は悪い方へと向かっていってしまう。



歩いても歩いても誰にも出会わない。



猫や犬も見ないし、声も聞こえてこない。



空を見上げると満点の星が輝いているけれど、それも今は心の救いにはならなかった。;



「どうしてファミレスに誰もいなかったんだろう」



不意に明宏が呟いた。



その声は全員の耳に届いていたはずなのに、誰も返事をしなかった。



誰も、そのことについて説明ができないからだ。



「ついたぞ」



それからまだ無言で10分ほど歩いた頃、ようやく見慣れた警察署が見えてきた。



警察署の前にある街灯が周囲を照らし出し、電光掲示板がにぎやかに交通事故多発を知らせている。



その光景に佳奈はようやく安堵した。



日頃から見慣れている場所、見慣れている文言に緊張が溶けていく。



5人は足早に警察署のドアの前に立った。



しかし、自動ドアは開かない。



「夜中だもんな」



「だけど人はいるはずだろ?」



慎也と明宏がぶつぶつと呟いて、自動ドアの中を確認している。



電気は消されていて人の気配もない。



「もう1度、ここから電話してみようか」



佳奈がスマホを取り出そうとした、その時だった。

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