飛び降り檸檬

筆入優

飛び降り檸檬

 屋上からレモンティーが飛び降りた。購買で売られている紙パックのやつだ。


 なんで飛び降りたのか、僕にはわからない。


 飛び降りを見たのは図書室の窓をぼうっと眺めているときだった。それを見るなり、図書室から走って現場に向かった。


 ストローの姿がない。不思議に思って現場から屋上に向かうと、そこで死体みたいに転がっていた。


 液体であるレモンティーが死んでしまって泣こうにも泣けないストローを僕は優しく抱きかかえる。


 彼に現場を見に行くか尋ねる。彼はその華奢な体を凹ませる。頷いているのだろうか。試しに現場のほうに進んでみる。ストローに拒否反応は見られなかった。


 現場に着き、ひしゃげた紙パックをストローに見せる。彼は体をウネウネとくねらせた。どういう感情なのか僕にはわからない。


「レモンティー事件」


 僕は呟く。それからしばらく現場を眺めていると、死体処理班なのだろう檸檬たちがやってきた。


「一回絞られて死んでんのに、二回も死ぬんじゃねえよ!」


 彼らはそう吐き捨てて去っていった。かと思うとまた戻って来て、唾の代わりにレモン汁をペッと紙パックに吐いてまたどこかに行ってしまった。結局死体処理班ではなかった。紙パックも僕が持って帰ることにする。レモンティーは地面にしみ込んでいて回収できなかった。


 紙パックをすり合わせてやると、ストローもクネクネと、人間で言うところの頬ずりをし始めた。余程恋しかったのだろう。もう死体になってしまって中身はすっからかんのレモンティーにも、生前と同じように接していた。あふれ出る愛情を間近で見ると涙腺が緩む。僕はストローの代わりに泣いた。


 教室に行くと、コーヒーが死んでいた。彼の前に清水が立っている。彼女は床にできた黒い水たまりを眺めていた。


「清水、君が殺したのか」


 僕が呼びかけると清水はこちらを振り向いた。


「うん。まずかったから」


 清水がそう言うと、紙パックとストローはひどく怯えた。


 そして、僕はわかってしまった。


 レモンティーが飛び降りたのは、清水みたいな奴を恐れたからだ……。


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飛び降り檸檬 筆入優 @i_sunnyman

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