浅はかで複雑な恨み
ボウガ
第1話
ある探偵、依頼されて、ある男たちを張り込んでいる。依頼者の夫とそれに連なる数人の旧友たち、もともとその依頼者の夫Aと旧友たちはひどく仲がよかったのだが、ある時期からお互いを罵り合い、恨みあうようになった、ある時期まで仲の良かった親友たちが、ある時期から互いの失敗の揚げ足取りを始めたのだ。その原因を探ってくれという事だった。
まず周囲の人間に聞き取りを始め、直接接触するときには変装して事実を確かめようとする。確かに恨みの形は様々だった。食べ物の恨み、性格の恨み、約束を破ったとかの恨み。複雑すぎる恨みが同時多発的に発生して、絡み合っていた。だが探偵はこれにある法則性を見出した。よく見ると数日ごとに定期的に、一定期間ごとに、ペアとなるようにそれぞれがすべての相手と恨みあうように、恨みが積み重なっていた。まるで示し合わせたように、そしてもっとも憎悪を持っているのは“A”本人だった。~昔はいい奴らだったのに、とか、~節操のない奴らだ~とか。彼だけは本気で恨んでいるような気さえした。
そして、調べていくうちに奇妙な事がわかった。彼らはもともと“とある女性”と仲良くしていたらしいのだが、この情報が断片的で限定的で、なかなかそのしっぽがつかめない。探偵はAの浮気と、関係者たちがこの女性に関係しているみた、女性の目撃情報が、この件依頼途絶えているので最悪その女性が行方不明になっているその原因がかれらにないかと考えた。
「これは、明らかに色恋沙汰でもめている、そして、何らかの呪術、儀式か??こんな規則的に“お互いを恨みあう”なんて、“そもそも一人失踪している”まるでそのことをもみ消すように、お互いわざと演技をしているのでは?」
彼らに隠れてメモを漁る、女性の特徴や、格好など、そこまで突き止めたとき、あるコンビニの裏側で彼らを追跡している最中にいくつかの懐中電灯に照らされた、その向こうにいたのは、彼らだった。
「ヒィ、ヒィイ!!!なぜ、お前らがここに!!今日は追跡をしていないのに、お前らすでに犯罪で一人の女を……これは私の手に負える件ではない……黙っておくから、私に手を出すな!!奥さんにはもう連絡してあるぞ!!警察にだって今から……」
友人の男たちとAは恐ろしい形相で探偵をにらんでいたが、しばらくするとその沈黙をさいて、笑い出した。そして、口々にいった。
「もうやめよう」
「探偵さん、あんたはよく調べたよ」
とAが
「誰の依頼だ?」
という、探偵は黙っていたが、Aが近づいてきていった。
「俺の奥さんか……仕方がない、すべてを話す時がきたな」
その後場所をうつし、居酒屋へ。探偵にすべてを話しだしたAと仲間たち、仲間は5人グループでわいわいと飲んでいた。いままで恨みあっていたのが嘘のように。そして、Aはしみじみと探偵に語りだす。
「呪術といえばそうかもしれない、俺たちは、わだかまりや過去の失敗を消すためにこうしたのかもしれない」
Aがいうには、この仲間たちは、今から6年前の同時期にある女と出会い、2年ほど前までここにいる皆で友情関係を発展させていた。その女というのが酒癖の悪い女で、酔うとすぐに誰にでもキスをする。勘違いした男どもは、それで自分が各々彼女と付き合っていると思い込んだ。ある時、今のように飲んでいるとき、彼女との関係をそれぞれに暴露する。そして喧嘩になった。だが実は思い人は一人で、肉体関係も、恋人関係もその人間だけと結んでいた。それがAだった。
「浮気ですか?」
というと余計にAは笑った。
「あはは、違うよ」
周囲の仲間たちも笑っていた。
事情を聴くにmその女というのが、Aの妻、つまり依頼者だったらしい。男たちは、それぞれAを好いており、諦めきれないものもいた。そこでAがいった。
「お互い恨みっこなしができなかった、俺だけ抜け駆けした、恨むなら俺を恨め」
その言葉を聞いた仲間たちは、それでも彼らは今までAの恋人とキスを交わしたのだ、Aも器が広いといえた、だからAだけのせいにだけできず、恥ずかしまぎれに、あるいは思いを断ち切るために、ある日にそれを決定して、互いに恨みあっていたというだけの話だったらしい。誰もが、彼女とキスをし、勘違いしたという恥をもっていたから。いわく“誰かが悪いという事にしておけば嫉妬をかき消せ、恥をかき消せる”彼らなりの友情だったのだろう。それが彼らが“最低限の友情を保つ方法”だった。
「じゃあ、女性が姿を消したというのは?女性の素性がつかめなかったのは?」
仲間内の一人がいった。
「探偵さん、しらないのか、奥さんは俺たちが本気で恨みあう数年前からタレント活動をしているんだよ、マスクをして俺たちの飲み会に暫く参加していたが、酒を飲むのを禁止するとしばらくして参加しなくなったんだ、まあタレントになって余計に俺たちは、本気で仲がわるくなっちまったがな」
探偵はその事実を知らなかった、世情に疎かったのだ。
その後Aの仲裁もあり、皆は仲の良さを取り戻し、かつAはその鈍感さを恥じ、酒癖を直したという。
浅はかで複雑な恨み ボウガ @yumieimaru
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