第2話 空番
暗闇に放り出されてからどれ程の時間が経っただろう。ぼんやりとしたまま目を開けると、私はその未熟な身体で光る何かと落ち合った。
意識がはっきりとしてきて私は目の前の景色に驚いた。青薄い雲や、ピンク色の水面には白鳥が佇んでいて、水面に反射した数多の星が虹色に輝く。
数多の銀河の先は、水平線なんて見当たらないくらいどこまでも続く黒が広がっていた。そしてその星々の周りを白いワンピースを着た青年が、ふわふわと宙を舞い踊っている。
「ここは……もしかして」
天界にいた頃、よく本で読んでいた”宇宙”という景色にそっくりだという事に私は気づいた。
それはずっと憧れだった景色。他の天使の子には宇宙はヌビリが創造したのだと教えられたけれど、ヌビリは私に何も教えてくれなかった。
「あ?!」
この光景に驚きつつ私が青年を眺めていると、目が合いその瞬間、突然青年がキラキラとした瞳で私の元へ駆け寄ってきた。
「待ってたよ!……えーっと双子座の
「え。は、?」
「ヌビリ様からの通達をさっき受け取ったんだ。慌てたよ。いや〜間に合って良かった」
青年は安堵した表情で、私を見つめる。
「えっと……はい、なんのことですか?」
今のこの状況に理解が追いつかない私は思わずそう言い放った。
「あれ、ヌビリ様から聞いてないの? 君は天使の役目を終え、空番になれたんだ。空番が終わるまでの君の生活位置は双子座の心臓……うん、ここで合ってるね」
「あの、空番って? 双子座の心臓って? そもそもここはなんなの?」
思わず質問攻めをする私を前に、少し戸惑った様子の青年が、顎に指を当てて答える。
「空番は天使の役目を終えた子がなれる役職なんだ。年間数万の天使が空番になる。空番になれた子は、12に分けられた星座に属するようになっていて、それぞれの星座に、空想員と呼ばれる管理者がいる。僕のことだ。
僕はヌビリ様に仕えるラムィ。ここで宇宙の軸がズレないように星々の位置管理と、ここに来た空番の子が退屈しない様に絵を描いて世話をしているんだ」
青年はそう言うと、持っていた水色のクレヨンで無重力の空間に白兎のイラストを描いた。そしてそれに息を吹きかけると、それが空間にバラけて、やがて点と点で結ばれ、星座のようになる。
「わ……凄いね……そっか、ヌビリが言ってたのはこのことなのね」
「何か聞かされていたの?」
「天使の役目を終えると素晴らしい世界が待っていると聞かされていたからワクワクしてたの。この景色も本で読んだものばかり。背中の羽が切られたのは痛かったけど、でも本当に……ここは素晴らしいものばかりだね」
私が感心しながらそう話すと、青年は高笑いをしながらこう言った。
「あっはは! 違うよ。空番はあくまでも素晴らしい世界に行く為の休憩時間のようなもので、ヌビリ様が言う素晴らしい世界は、もっと別のところにある」
「そうなの……? それって一体何処に……」
「ふふっ、いつか連れてってあげるよ」
青年はそう言って私の頭を二、三度撫でた。初めて会う青年の手に、私は嫌悪感は疎か、何故か酷く安堵していた。
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