第4話 「単位認定試験」

 ——1月某日。単位認定試験当日、朝。


 涼太は、電車に乗って試験会場まで向かっていた。

 涼太は、地下鉄を利用しているのだが、平日の朝ということでものすごい混雑だった。


(こんなぎゅうぎゅうだと息も詰まるな……)


 電車に揺られること数十分、会場の最寄りの駅に到着した。

 そこは、都市部から少し離れていて下町という様相ようそうていしていた。

 涼太は、そんな初めてきたこの町の雰囲気がなんとなく心地よかった。


 駅から徒歩十分ほどで試験会場に到着する。

 試験の時間まで余裕をもって来たつもりだが、早くも人が大勢いることに驚く。

 まるで遅刻でもしたかのような気持ちで、教室の席に着く。


(緊張する……)


 そんなこんなで1限目の国語表現を終える。

 通信制高校に来て初めての試験にしては、なかなかの出来なのではないのだろうか。


 2限目、3限目も終えて、4限目の倫理を終えたとき。


 そんなとき、ふと消しゴムが落ちているのが目に入る。

 隣の席の人のだろうか。

 ””と名前の入った消しゴムを持ち主に渡す。


「これ落ちてましたよ」


 と同じ高校生なのになぜか敬語を使ってしまう。

 通信高校生あるあるなのではないだろうか。


「あっ、ありがとうございます……」


 と女の子がお礼を言う。


「そういえば、倫理どうでした?」


 とせっかくだし雑談をしようと思い、涼太は話しかける。


「私、倫理苦手であんまりです……」


 と自信なさげに紗耶は言う。


「自分もあんまり。あとこの後の数学Aめっちゃ苦手。やばいかもです」

「ほんとですか?私は数学はなんとかいけるかも」

「いいな〜」


 と雑談していると、チャイムが鳴る。


「あ、そういえば名前なんて言うんですか?」


 と紗耶に試験が始まるまでの合間に聞かれる。


「あそっか。そっちは犬塚さんだよね。ぼくは山川涼太って言います。あとタメ口でいいよ」

「わかった!え?山川くん?」


 と会話している間に、静かになって数学の試験の準備が始まる。

涼太は犬塚さんの反応が気になるが、不安だった試験で、喋る相手ができて嬉しく思うのだった。


 案の定数学がちょっと危ういなと思うような内容で終えて、お昼休憩に入る。

 お昼は自分の座っている席で食べるのだが、紗耶と席が隣なため、雑談しながら朝コンビニで買ったおにぎりを食べる。


「あ、さっきはごめん。山川くんだよね。よろしく!」

「あ、全然大丈夫だよ。犬塚さんもよろしく」

「そういえばお昼、お弁当なんだね。自分で作ったの?」

「いや今日はお母さんが作ってくれたよ。料理はたまにするんだけど、さすがに今日は朝早かったからお母さんに頼んだんだ」

「そうなんだね。料理自分はあんまりできないや。あ、そういえばさ、趣味とかって何かあるの?自分は、アニメとか好きなんだよね」

「私もアニメ好きだよ!何見てるの?」

「自分は——」


 そんなこんなで盛り上がったのだが、紗耶と同じ趣味なことに驚く。

 会話を楽しむがあっという間にお昼休憩が終わる。


 その後、6限から10限まで長かったがなんとか終える。


「長かったね。めっちゃ疲れちゃった」

「ほんとにね。ぼく帰ったらすぐに寝ちゃいそう」


 普段、家にいることが多いため、1日中頭を使い、試験を受けるのは、2人にはきつかった。


「駅まで一緒に帰らない?」

「うん。いいよ」


 すっかり暗くなってしまった朝通って来た道を行く。

 周囲には、同じように試験を終えた同じ高校の生徒が帰宅している。


「でさ主人公のさ——」


 2人とも好きなアニメについて熱く語り合う。

 そうこうしているうちに、あっという間に駅に着いてしまう。


「あっ、もう駅だ」

「ほんとだ。早かったね」

「そういえばさ、犬塚さんって住まいどこらへんなの?ぼくは、ここから地下鉄で数十分のとこなんだけど」

「私?私は、JRで都心まで出て乗り換えがいるけど1時間かからないとこだよ〜」

「そうなんだ。2人とも結構近いんだね。またスクーリングとかで会えたらいいね」

「うん、そうだね!またアニメとかで話そ!」

「あ、じゃあ地下鉄こっちだから。またね」

「うん、ばいばい!」


 そうして2人は別れる。


 余談だが、あんなにアニメで話を盛り上がっていて友達になれそうだったのに、SNSなど連絡先を交換していないことに、帰ってから涼太は気づいたのだった。


『あっ!』


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