第53話 (ネパール視点)

 しんとした緊張感のある空気がこの場を支配する。

 その最中、アズリックが改めて口を開く。


「それでは」


 そう言って、アズリックが始めたのは私とマイリアル伯爵家を断罪する内容だった。

 それはセルリアがエミリーと私の関係を知ってからの詳細な話。

 その話が進むごとに、どんどんと周囲の視線が変わっていくのを感じる。

 その視線を感じながら、私はなにが悪かったのかと呆然と考えていた。

 いや、その答えなど最初から明らかだった。


 ……セルリアを手放すべきではなかったという話でしかないのだ。


 そのことに気づき、呆然とすることしかできない私をよそに、どんどんとアズリックは話を続けていく。


 セルリアの負担の大きさ。

 私とエミリーの関係。

 そして、私とマイリアル伯爵家の人間がセルリアに告げた言葉。


 その話が続くうちに、私とマイリアル伯爵家当主もどんどんと顔から血の気が引いていく。

 ……ばたん、という音に振り向くとそこには呆然と地面に倒れ込むマイリアル伯爵家夫人と、エミリーの姿があった。

 その音を聞いて、その二人がいたことを私は思い出す。


 しかし、もうそんなことどうだってよかった。

 ただ、思う。

 これ以上、アズリックの言いなりにする訳にはいかないと。

 しかし、先ほどのマイリアル伯爵家当主に対する公爵閣下の一喝が頭によぎる。

 それが躊躇となり私は口を開けない。

 そんな状況下にも関わらず、マイリアル伯爵家当主はためらわなかった。


「ふざけるな! すべてでたらめだ!」


 その言葉を聞きながら、私は再度公爵閣下が叫ぶ姿を幻視する。

 けれど、今度は公爵閣下は怒鳴ることはなかった。


「確かに、話の真偽は証明されなければならないな」


 まるで自分は中立だと言いたげにそう告げる公爵閣下に、私は違和感を覚える。

 明らかに公爵閣下はセルリアをひいきしている。

 にもかかわらず、それを表には出さない公爵閣下に、私は違和感を覚える。 

 しかし、それを私は口にすることはなかった。

 何の思惑かはわからない。

 それでも、今この状況において公爵閣下の態度は私たちに利益しかなかったのだから。


 そんな私の思惑を知る由もなく公爵閣下は、ゆっくりとアズリックに向かって告げる。


「その証拠はあるのか? アズリック」


「はい」


 けれど、私は気づくべきだった。

 この状況において、もう勝機など残されていないことを。


「──何せ、これはアズリック商会に訪れたセルリア嬢自身が話されたことなのですから」


 そう告げたアズリックに、部屋の中から言葉が消えた。

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