第19話 (三人称)
一瞬男の顔に何を言われたのか分からない、と言った表情が浮かぶ。
しかし、それはすぐに怒りの表情に変わった。
「貴様、伯爵家に向かって何という言葉を……! すぐに後悔することに……」
「状況が分かってないのは貴様らだろうが」
それをアズリックは一瞬で笑い飛ばした。
心の底からの嘲りを浮かべ、その男に告げる。
「後悔するのは貴様含めたマイリアル伯爵家の人間達だろうよ。……貴様等は一体誰に喧嘩を売ったのかさえ理解していないらしいな」
「……は?」
「──公爵家がどれだけセルリアに価値を見出しているのかさえ知らないのか?」
男の顔から血の気が引いたのはその時だった。
しかし、その顔に強引に笑みを浮かべ、男は口を開く。
「そ、そんな嘘で俺を騙せるとでも? 今もなお、交易が長い間成立することがないのは、セルリアが公爵家に嫌われているからだろうが!」
その言葉に、そう言えばこの男には交易が成立した情報を与えていなかったことをアズリックは思い出す。
交易の情報は最高機密で、この男にはその情報を得れる立場にはなかった。
とはいえ、そのことを丁寧に説明するつもりはアズリックにはなかった。
代わりにあることを伝えるべく口を開く。
「違う。公爵家が嫌っているのは、マイリアル伯爵家とネパールの方だ」
「……は?」
「そもそも、マイリアル伯爵家とネパールがあれだけ多くの交易を抱えることができたのは、セルリアの存在があったからこそだ」
その言葉に今度こそ、男は言葉を失う。
それこそ、マイリアル伯爵家もネパールも、そして当の本人であるセルリアさえ勘違いしている事実だった。
確かに、伯爵家という立場は大きい。
けれど、それを活かすにはマイリアル伯爵家のやってきたことはあまりにもあくどかった。
マイリアル家は、ある男爵家の領地をだまし討ちのような形で奪ったことがある。
その男爵家は商人から成り上がった親交貴族で、確かに貴族の知り合いは少なかった。
だが、その代わり多くの商人の不審を集めることになっていた。
それでもマイリアル伯爵家と交易する商人がいたのは、セルリアという存在があったからなのだ。
「セルリアが消えた今、一体どれだけの商人が伯爵家との契約を続けるか見物だな」
そう言って、アズリックは笑う。
「う、嘘だ……。セルリアなどエミリー様の足元にも及ばないはず……」
そうつぶやく男の顔からは、血の気が引いていた。
それに呆れを滲ませながらアズリックは続ける。
「まだ話の前提を話しただけだろうが」
「何を、言っている?」
「ところで、そんな悪評まみれの貴族を、どうして公爵家が交易に参加させたと思う?」
「交易の参加……? なっ!」
想像もしない情報に男は呆然と声を上げる。
しかし、それを無視してアズリックは続ける。
「セルリアはそんな存在を内に入れてもお釣りが帰ってくる。公爵閣下がそう判断したが故に伯爵家は交易に参加できたんだよ」
そう、それこそがマイリアル伯爵家がもう恐れるに足らないといえる理由。
「──公爵閣下に喧嘩を売ったマイリアル伯爵家程度に未来なんてあると思うか?」
◇◇◇
明日から、一日一話更新とさせて頂きます!
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