第15話 (エミリー視点)
「な、なんで? 私がいるじゃない? セルリアなんていらないじゃない?」
そう言いながらも、その実私は必死に祈っていた。
私の言葉を二人が肯定してくれることを。
けれど、その私の願いが届くことはなかった。
お父様も、ネパール様もまるで私の言葉が聞こえなかったように私から目をそらす。
その光景を、私はただ呆然と見つめることしかできなかった。
二人が出て行くその時まで。
「……うそつき」
私の口からそんな言葉が出たのは、誰もいなくなってからのことだった。
──何が優秀な存在だ。私や君の方が価値があると思わないか?
──お前は可愛いな、エミリー! お前さえいれば、セルリアなどいらないものを。
「うそつき、うそつき……!」
かつて、私に向けてネパールとお父様が告げた言葉。
それを思い出しながら、私は呆然とつぶやく。
しかし、それを聞く人間さえここにはいなかった。
その事実が、より私の中の記憶を刺激する。
──ありがたいお言葉です。でも俺は。
「……っ」
その記憶に、気づけば私は唇をかみしめていた。
それは一番思い出したくなかった最悪の記憶。
それさえなければ、私は純粋に自分はセルリアより優れていると思い続けていただろう。
けれどその人、元男爵令息マシュタルは私を否定したのだ。
──俺はセルリア様の側にいることが何より望みなので。
「どうして、あの女ばかり……!」
私の告白を一切の躊躇さえなく否定したその時。
それは、私の頭の中まだはっきりと残っている。
初めて何かがうまく行かなかったのこそ、その時で。
それから私は、徐々に気づき始めることになった。
……よく見れば、誰もが私よりセルリアのことが有用だと判断していることに。
「そんなことない!」
そこまで考えて、すぐに私は自分の頭にふと浮かんだその考えを降り払う。
そう、そんなことありえはしないのだ。
すぐに皆思い直す。
本当に必要なのはセルリアではない。
私だということを。
「だから、これは知らせるまでもないものよ」
そう言って私はある手紙。
……商会にいる手の者から送られたものを握りつぶした。
「私さえいれば、それでいいのだから!」
誰もそのことを知る由もなく。
◇◇◇
次回から、セルリア視点に戻ります。
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