第12話 (ネパール視点)
私の乗った馬車が伯爵家に着いたのはすぐのことだった。
そしてそんな私を迎えるのは、いつもより丁寧な使用人達の歓迎だった。
それえを受けながら、私の胸に徐々に安堵が浮かんでいく。
やはり、伯爵家は味方だと。
勝手なことをされた怒りが消えた訳ではない。
しかし、今必要なのはセルリアの存在。
そして、そのためにはマイリアル伯爵家の協力は必要不可欠だった。
マイリアル家当主が私の通された客室に現れたのは、それから少ししてのことだった。
「これはネパール殿。久しぶりだな」
そう言って笑うマイリアル家当主。
その顔には、約束を破った罪悪感など微塵もなく、私の胸に苛立ちが浮かぶ。
一体誰のせいで、こんな時間がかかったのだと。
そのせいで、どんな状況にあるのかと、思わず叫びたい衝動に私は刈られる。
「お久しぶりです」
その内心を必死で押さえ、私は口を開く。
「来て早々で申し訳ないのですが、セルリアに何がありましたか? ……以前お話した状況と違ったのですが」
「何、うまく言ったのだからいいだろう! 婚約破棄はできたんだろう!」
そう言いながら笑う伯爵家当主に、私は殺意さえ覚える。
エミリーとの婚約の方が、こちらにとっては些事だとそう叫びたい衝動にさえ駆られる。
そんな怒りを私が必死で押さえているとも知らず、伯爵家当主は笑顔で口を開く。
「今来たということは、今までお楽しみだったのだろう?」
下世話な笑顔を浮かべ、そう告げる伯爵家当主。
その意味は分からない。
ただ、どうしようもない不快感が私の胸によぎる。
けれど、それを何とか押さえ込んで私は口を開く。
「それについて一つ、お願いが」
「ん? 何だ?」
「……私がセルリアを側室にとることを許し欲しいのです」
そう、私が伯爵家に強気に出る訳には行かない理由こそがこの言葉だった。
今の現状、私はなんとしてもセルリアを側室に迎え入れないといけない。
セルリアに直接話を通しても、おそらく側室の話は受け入れられるだろう。
けれど、万が一にも失敗する訳には行かない。
故に私は、マイリアル伯爵家の方から許可をとることをきめたのだ。
目の前の男なら、絶対に躊躇しないと判断して。
「何だそんなことか。それなら好きにすればいい」
そして、その私の想像通りだった。
マイリアル伯爵家当主はそう言って、すぐに了承する。
自分の考えがうまく言ったことに、私は思わず会心の笑みを浮かべる。
これで、何の心配ごともありはしないと。
しかし次の瞬間。
突然あけ開かれた扉に、私の笑みは固まることになった。
「……どういうことですか」
そこにいたのは、こちらをにらみつけてくるエミリーの姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます