第13話 (ネパール視点)
「……っ」
その時になって、私はエミリーに自分達の会話が盗み聞きされていたことに気づく。
「私がいるじゃないですか! どうしてお姉様なんかを側室に迎えようとするんですか!」
ヒステリックに叫ぶエミリーの声を聞きながら、私は思わず顔をしかめる。
普段であれば、多少騒がれても私は気にしなかっただろう。
けれど今、私は伯爵家当主の怒りを買うわけには行かない。
「……これは違うんだよ」
そう言いながら、私が見ていたのはエミリーではなく伯爵家当主だった。
エミリーを伯爵家当主が溺愛しているのは有名な話だ。
ここで対応を間違えれば、全てを私は失うことになる。
だが、そんな弱腰の対応でエミリーが止まることなどある訳がなかった。
その目に怒りを宿し、叫ぶ。
「何が違うの! そんな不誠実なことする人じゃないと思っていたのに!」
……自分の行いを省みて欲しい、そんな言葉が喉元までせり上がる。
それを必死に抑え、笑顔を浮かべながら私はどう言えばこの場が収まるのか必死に考える。
伯爵家当主が口を開いたのはそんな時だった。
「エミリー」
「お父様! 聞いて酷いのよ! ネパール様が……」
「これはお前が口を挟んで言い問題ではない。下がっていろ」
その瞬間、エミリーが言葉を失う。
いやエミリーだけではなく、私もまた驚愕を隠せていなかった。
呆然と、私は伯爵家当主の顔を見る。
その顔は不機嫌そうであるが、エミリーが逆鱗を踏んだ故の反応には見えなかった。
そして、いつものエミリーをほめる時と一切変わらぬ口調で告げる。
「早くこの場から去るんだ」
「……はい」
その言葉に、今度こそエミリーが反抗することはなかった。
素直にうなずき、その場から立ち上がる。
その光景を見ながら、俺の胸にあったのは疑問だった。
今まで伯爵家当主はエミリーをかわいがっていると思っていた。
けれど、今になって俺は理解する。
今の態度を見る限り、決してそうだといえないことに。
「とんだ邪魔が入ったが、話を戻そうか」
「……っ。はい」
しかし、私がそれについてゆっくりと思考を回すことはなかった。
伯爵家当主の言葉に、私はすぐに頭を切り替える。
今の優先順位は、セルリアだと。
側室の許可を貰ったとしても、それだけで終わりはしない。
本人を説得するという一番の仕事がまだ残っているのだから。
ところで、セルリアは一体どこにいるのか、そう私は聞こうと口を引こうとする。
しかし、その前に伯爵家当主が口を開いた。
「ところでセルリアはどこにいる? 馬車の中で待っているのか?」
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