第20話

 夕暮れの住宅地。

 俺のたちの前に現れたのは銀髪の男。

 なぜかこんな場所でダンジョンの探索者が装備するような戦闘衣装姿だ。

 

「なに……だれ、この人。夕都くんの知り合い?」


「いや……」


 戸惑う優乃さんをかばうように、俺は一歩前に出た。


 銀髪の男はくつくつと低い声で笑っている。


「探したんだぜぇ、おまえのことを。

 いや、もちろん探してんのはオレだけじゃないけどな」


「俺に……どんな用が」


「決まってんだろーがぁ。

 かつて世界を救った後、その行方をぱたりとくらませた

 大英雄さんが、まさかこんなところにいたとはぁ」


「なんの……こと?」


 優乃さんは、男と俺を交互に見ながら戸惑っていた。

 俺は緊張しながら、男の一挙手一投足をにらみつけていた。


「はっ、知らねーのか?

 この国で数年前起きた、最初にして最大規模のダンジョン災害

 ――1stクライシス。

 本当はあのとき、。そうだろう?」


 男の言葉に、俺は無言で答えた。

 だが男は期待通りのリアクションとばかりに高笑いする。


「その最大の危機を救った世界最強の英傑たち。

 そんな奴らを束ねて率いていたのが、おまえだ。カナモリ・ユウト」


 優乃さんは、なんの話かわからないといった様子だ。


「人違いじゃないかな」


「はっ……そうかい。だったらよぉ……

 ちょっくら証明してもらおうか!!!」


 その瞬間、男がどこからか取り出した巨大な槍を、

 俺の首元に向かって突き出していた。


 それは百分の一秒にも満たない一瞬。


 踏み込みの衝撃でアスファルトにクレーターのような亀裂が走る。

 竜巻のような暴風が男を中心に吹き荒れた。


「……これが、なにかの証明になるわけ?」


 俺は、槍を片手の指先でつまんで止めていた。

 

 それを見た男が狂喜の笑みを刻む。


「やっぱり間違いねぇ。この槍はSS級モンスターすら一撃で屠れる戦闘仕様だぜ。それを素手で止められるおまえが、だろうがよぉ」


「……そう」


 いずれにしても、ここで戦うのは得策ではない。

 俺は後ろを振り返り、驚いて立ち尽くしたままの優乃さんに言った。


「ちょっと待ってて、すぐ戻るから」


「え、あ、うん……」


 俺は次の瞬間、男に接近してその首を片手でつかむと、

 そのまま飛翔スキルを発動させた。


 次の瞬間、上空数百メートルへと一気に上昇した。


「がっ……!!」


 男が空中で俺の腕を激しく叩き、引き剥がそうとする。

 だが俺の腕はぴくりともしない。


 このまま喉笛を砕くことは容易い。

 けれど、そんなことはしたくなかった。


「なにが目的? どうして今さら、

 あらゆる権限を放棄した俺をつけ狙うの?」


「ひ、ひひっ……そりゃ……おまえの力が、

 目ざわりだって考える連中が……いるに……決まってるじゃねぇか」


「……ひょっとして、この前起きたダンジョン災害に

 なにか関係があるのか」


 俺がそう言った瞬間、男は【ゲート】スキルを発動した。

 暗闇の中に緊急離脱し、男はその場から逃げうせた。


 一瞬、後悔がよぎる。


 逃がさずに追い打ちをかけることはできた。

 ――だが、下手をすれば、殺してしまう可能性もあった。

 それを避けた結果だった。


「なんだか……嫌な予感がするな」


 俺は地上にいる優乃さんのことを考えながら、

 かつてのような胸騒ぎを覚えていた。


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