第17話

 俺は普段使っている対モンスター用の刀で

 空中を飛翔しながらドラゴンの翼を切り裂いた。


 飛行能力を失ったドラゴンが

 錐揉み落下をしながら空中で光の粒子となって消えていく。


「おりゃああああああ!」


 視界の端で、ビルの真横を飛ぶ優乃さんが、

 べつのドラゴンを追尾していた。


 ドラゴンが空中で旋回し、

 大きな口腔から灼熱の炎を吐く。


 それを空中に形成される足場で跳躍して回避した優乃さんは、

 反転して鋭い刺突を繰り出した。

 その奔流はまるで極太のビームの様にドラゴンのどてっ腹を貫いた。


「はぁはぁ……こ、これで10匹……!」


 優乃さんが肩で息をしている。

 ふらついてる身体を、俺は後ろからそっと支えた。


「あ、ありがとう、夕都くん……」


「優乃さん、すごいよ。こんな短時間で飛翔スキルを

 ここまで使いこなせるなんて、想像以上だ」


「え、そ、そう? でへへ……」


 優乃さんはしまりのない笑顔を浮かべて頭をかいた。


「で、夕都くんは何匹倒したの?」


「ちゃんと数えてなかったけど……さっきので200体目くらいかな」


「200!?

 私と全然比較になんないんですけど……!」


「そんなことないよ。

 優乃さんが倒した分で、助かった人たちがいるはずだ」


 俺は至極真面目に言った。

 

 だがドラゴンはあちこちのダンジョンから外へあふれ出しているらしく、

 まるで無限に出現するようだった。


 ダガーたち俺の昔の仲間も善戦してくれてはいるが、

 いかんせん数が多すぎる。

 都市を覆う異形の姿は尽きる様子がまるでなかった。


「なんて数……これ、どうしたらいいの……」


 優乃さんは焦燥に口元を歪ませる。

 たしかに、この状況では、悠長なことはしていられない。

 手段を選んでいる余裕はないのかもしれなかった。


「……仕方ない……か」


 俺は覚悟を決めた。

 後始末は大変かもしれない。

 だが、人命には変えられない。



「第一種戦闘スキル群の制約状態をすべて解除。

 ウェポンアーセナルへのアクセスを許可。

 ――【エクス・カリバーン】の限定使用を承認」



 俺は自分にかけられているいくつかの拘束を解いた。


 直後、側面の空間が突如として揺らぐ。

 そこに俺は右腕を突っ込んだ。


 そして、目当てのものを掴むと、 

 それを虚空から引き抜いた。


 次の瞬間、すさまじい雷光が俺を中心にして空中に迸った。

 

 優乃さんが目を見開いて驚きの顔を浮かべている。

 

 俺の手には、一振りの美しい西洋剣が握られていた。

 

「ゆ、夕都くん。それって……いったい……」


「これは、俺が昔使ってた、本物の武器のひとつだよ」

 

「ほ、本物って……じゃあ、今まではそうじゃなかったってこと!?」


「まあ……。

 そもそもこれは、そんなに気軽に使えない代物だから」


 俺は苦笑して答えた。

 これを使うことは、色々と影響が大きい。

 これを俺が使用したという情報は、否応なく世界各地に飛び、

 しかるべき人間たちが知ることになるだろう。


 味方も、そして――敵も。


 そのとき、大量のドラゴンたちが一斉に咆哮した。

 やはり、この剣の持つエネルギーは、モンスターを引き寄せるらしい。


 上空の四方八方から、ドラゴンの群れがこちらに向かってくる。


 それを冷静に確認しながら、俺は剣を引いた。

 腰だめに構える。

 剣が雷光を発し、刀身がまばゆい光を放つ。


「対多目標破砕攻撃スキル――

 【ソード・レイン】発動」


 俺はエクス・カリバーンを上空に向かって振り抜いた。


 一筋の光が、天空に打ちあがる。


「え――――」


 優乃さんは、そのどこか幻想的な光景に目を奪われていた。


 その直後。

 

 天から無数の光が、一斉に降り注いだ。


 それは目に留まらぬ速度で、都市を飛翔する無数のドラゴンを貫いた。

 

 ドラゴンがどれだけの速度で飛翔していようと、

 どれだけの数がいようと、

 一切合切関係がなかった。


 天から降り注いだ光が自由自在に曲がり、半径数100圏内にいる

 すべてのモンスターを一瞬にして撃滅した。


「う、そ…………」


 つい先ほどまで混乱に陥り、

 人々が恐怖と絶望に陥っていた都市が、一瞬の静寂に包まれる。


 俺の手元から、役目を終えた剣が静かに消える。


「ダンジョンの外に出たモンスターの気配は……

 これで消えたかな」


 俺は探知スキルを発動させながら、

 事態の鎮静化を確認した。どうやら脅威は消えたらしい。


 と、そこで実は俺の知らないところで、

 べつの問題が生じていたらしい。


「あれ……これって、私のドローンカメラ?」


 優乃さんの横に、ゆっくりと浮上してきたのは、

 いつもダンジョンでの配信用に使っているカメラだ。

 レンズの下のランプが赤く点灯している。


「あっ、ダンジョン出るとき仕舞うの忘れてた!」

「えっ、あの、それって……つまり……」


 優乃さんは、少し気まずそうな顔で、

 それを誤魔化すように照れ笑いした。


「ええっと、つまり……

 私たちの今の戦い、全部LIVE配信されてた……かも」


 俺はそれをぽかんとして聞いていた。


 それが、ユノチャンネルのみならず

 全世界にどれほどの影響を与えることになるのか、

 今の俺はまだ知る由はなかった。




_______________


ここまで読んでくださった読者の皆様、ありがとうございます!

またここから新たな展開?が始まりそうな予感です。


読者の皆様の反応見ながらこの後の展望考えていきたいと思いますので、

続きが気になる、という方は★★★やブクマや応援を付けていただけると

嬉しいです……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る