ダンジョンで救った配信者が、同棲中の義妹だった
ヒトども
第1話
「兼森くん……え、待って、なんで?」
「伊吹さんこそ……こんなことで、なにしてるんだよ?」
俺はモンスターが徘徊する危険なダンジョンの奥地で、
ひとりの少女と向かい合っていた。
彼女はつい先ほどまで、この階層に現れるはずのないA級モンスターに襲われていた。
高校一年生で、少し派手めな見た目をしているが、ごく普通の少女。
そして彼女に手を差し伸べているのは、そのモンスターを、うっかり倒してしまった少年。
同じく高校一年生で、特に特徴らしい特徴もないが、ダンジョン攻略を趣味にしているだけの、ごく普通の少年。
――それが俺だった。
ダンジョン内で、誰かを助けたり、誰かに助けられたり。
そんなことは珍しいことではない。
ダンジョン内で、知り合いに出会ったり。
それも決して稀有なことではない。
ただ、俺と伊吹さんは、少々特別な関係にあった。
いま俺と伊吹さんは、ひとつ屋根の下で一緒に暮らしている。
つい先日、親の再婚で、義理の兄妹となったばかりの間柄。
つまり――いま俺が助けた相手は、義妹だった。
伊吹さんはしばらく呆然としていたが、スマートフォンを見ると、
突然声を上げて立ち上がった。
「っていうか……え、待ってなにこれ!?
視聴者数、めくちゃくちゃ増えてるんだけど……!」
「視聴者?」
「は・い・し・ん! 決まってるじゃん!
ああっってやばっ声入っちゃったし……」
伊吹さんはだいぶ興奮している。
「あの……それよりも、大丈夫? 怪我とかしてない?」
「そんなこと今どうでもいいってば! ほら見てよこれ!」
そう言って、彼女はスマホの画面を俺につきつけた。
そこではすごい勢いで文字が流れている。
〈なに今の?カメラバグった?〉
〈なんかわからんが倒したっぽい〉
〈ユノちゃん最強!ユノちゃん最強!〉
〈???〉
〈いや倒したのはちがう人でしょ〉
〈誰?〉
〈つかあれA級モンスターだろ? そんな簡単に倒せるわけないじゃん〉
〈意味がわからんすぎ〉
〈ユノちゃんの知り合い?〉
〈野良の探索者っぽい〉
〈マジで誰???〉
画面に次々と流れる言葉の数々。
その話題の中心にいるのは、どうやらもしかすると――自分のことらしい。
ということを、俺は遅れてようやく理解した。
「わかったから、とりあえずいったん安全なところに――」
俺が言いかけた、そのときだった。
迷宮の奥に、ゆらりと蠢く影があった。
俺は咄嗟に、伊吹さんをかばうように前に出た。
「下がって」
「――え?」
俺は、すぐにそれが、先ほど倒したA級。
いや――これは、そのさらに上位種。
筋骨隆々の巨体。鋭くねじれた二本の角。
人と牛を融合させたような姿。
S級モンスター――ミノタウロス。
今度もまた、考えるよりも先に、身体が動いてしまった。
ミノタウロスが咆哮を上げた瞬間、俺はその真横で、武器を振りぬいていた。
「――え?」
伊吹さんが、目を瞬かせて呟く。
俺は役目を終えたそれを、ゆっくりと鞘に納める。
次の瞬間、ミノタウロスの巨躯が真っ二つに切り裂かれ、崩れ落ちる。
S級モンスターが、光の粒になって霧散した。
「ふぅ……」
「嘘、でしょ……やばすぎ……」
伊吹さんが、俺の方を見て、再び唖然と口を開けていた。
そしてゆっくりと、納刀した俺を、わなわなと震えながら指差す。
今度は何を言われるのだろうか。
俺は内心恐恐としながら、彼女の続く言葉を待った。
「兼森くん……いま、私のチャンネルでめっちゃバズってる!!!」
「え、そこ?」
彼女が付きだすスマートフォンの画面。
そこに再び濁流のように押し寄せる大量のコメントと、急上昇を続ける数字。
それが、俺と義理の妹との、
新しい「関係」の始まりだった。
+++
かつて、世の中ではVtuberというものが流行していたらしい。
彼ら、彼女たちはゲーム実況をしたり、歌を歌ったり、踊ったり、絵を描いたり、
色々な姿を「配信」して、一世を風靡した。
だが、今の世界は大きく変わった。
ダンジョンと呼ばれる正体不明の迷宮が突如として、世界各地に出現。
それと同時に、スキルと呼ばれる不思議な力に、人々が目覚めた。
やがて、世界中のありとあらゆるところで、人々はスキルを用いてダンジョンを攻略するようになった。
それから十数年。
全貌の見えない迷宮の攻略は、今も続いている。
そして今、ダンジョン攻略こそが、「配信」の最前線コンテンツとなっていた。
ダンジョンを探索し、その様子を配信する人々は、
Seeker(探索者)と、かつてのVtuberの名前を合わせ、
Stuberと呼ばれている。
_______________
本作を見つけて読んでくださった方、ありがとうございます!
もし少しでも続きが気になる、という方は、★★★やブクマや応援を付けていただけると非常に嬉しいです!作品を続ける上でとても大事なモチベーションになります!
それでは、本作を引き続きお楽しみください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます