イノナカノ私、世界を知らず

嘘付本音

プロローグ 新たな世界への旅立ち 

 私の全てを尽くす。

 巻き起こし続ける暴風は、砂埃と共に血塗れた元凶を押さえつける。

「このチビども如きがあああああああああ!」

 吠える元凶の元へ、風を背に受けた男が飛び、勢いのまま大剣で厚い体を貫いた。

 やがて静寂となり、元凶の体から力が抜ける。その様子を見届けた私の体からも、力が抜けた。

 まさか、二人だけで本当に……。無事、倒すことができるなんて。

「えっ」

 ふと驚き、思わず声が漏れる。いつの間にか背後にいた男の強健な腕が、私を抱きしめたから。

 喜びの抱擁ではないと思った。その腕は強く、決して抜け出せない。

「どうしたんですか?……えっ!」

 二度目の驚きが、私を更に混乱させた。

 目の前から景色が消え、地を踏む感覚が消え、上下左右すらわからなくなる。

 唯一わかったのは彼の腕だけ。

 それが私の旅立ちとなった。


 視界が戻り、感覚が戻ってくる。しかし、そこは先程までいた場所とは違っていた。

 広く真っ白な空間。

 まるでなにもない場所であったが、目の先には、白い衣装に身を包んだ老人がいた。

「その女はなんだ」

 老人が口を開く。

「こいつを殺す」

 重く低い声が背後から響いた。状況を理解することができない。

「だから、どうした」

「もうおまえの好きにはならない。戻れないのなら、次は全てを破壊する」

 男の声色が重くなっていくが、老人は軽く笑う。

「出来もしないことを。もはや私に敵わないと理解した、か」

 抱きとめる腕に力が込められていく。

「……まあいいだろう。気に入ったのであれば、その女の同行を許可しよう」

 男の体に怒りが満ちていくのを感じる。

「おまえはっ!」

 私を放して、一目散に老人へと飛びかかった。が、老人の指先から吹き出した泡が、簡単に男を吹き飛ばしていく。

「だ、大丈夫ですか?」

 あまりの衝撃に思わず、先程殺すとまで言われた男に駆け寄っていた。

 未だ状況は理解できていないが、元凶を倒してくれた人だ。

「君にも、神の祝福を授けよう」

 男の体を起こす私に、暖かい光が降り注ぎ、どうする暇もなく体に染み込んでいく。

 神とは一体。

「では、次の世界だ」

 再び、感覚が消えていく。今度は、私が彼の体を抱きながら旅立つ。

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