ヨルノカ

@Kugai_kotarow

第1話 かぞく

「かえらなきゃ、」


少し気の抜けたような夕方5時のチャイムが、町の中に響いた。

母親と約束した帰宅の合図に子供たちは無意識に遊んでいた手を止めた。

放課後に集まった友達の家でするゲームにすっかり時間を忘れている。

時化石ユウもその中の一人だ。

「さっきのゲーム、クリアまでもう少しだったなー」

「ねぇユウちゃん、明日は一緒に学校へ行く?」

停めていた自転車にまたがる真崎花は、ユウのクラスメイトだ。

「うん、7時50分にいつものとこで待ってて」

「じゃあまた明日ね」

にっ、と嬉しそうに笑って手を振り別れる二人。

それぞれの背中を暮れかけの夕陽が照らしている。


いつもならこのあと、

家に着いたら乱暴に靴を脱いで、

手を洗ってうがいをして、

それからキッチンに立つお母さんにただいまと声をかける。

いつもならそうだった。

今考えれば、ほんの少しの違和感が家に入る前からあったように思う。

暮れかけた外、家の中ではリビングに電気がいつもならついていた。

外からそれが分かるから、誰か家にいるんだなと目印になることもあった。

今日は電気がついていない。

お母さんは今日は家にいるはずで、弟ももう家に帰ってきてる時間で

お父さんはいつもは仕事の日だけど、ユウキュウとかってやつでお休みだって言ってた。

もしかして、みんなでどこかに出掛けちゃった?

そう思いながらユウはランドセルから家の鍵を取り出し、玄関に差し込んだ。

「?」

鍵を回すと、すでに開いている感触がした。

「締め忘れてんじゃん、不用心だなぁ」そう言いながら、どうぜ弟がまた鍵を閉め忘れたんだろうと文句を言ってやるつもりで勢いよく玄関のドアを開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヨルノカ @Kugai_kotarow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る