あの時、君に恋していた。
サドガワイツキ
第1話 成人式での再会
成人式が終わった後の飲み会、というのはどこの成人式でもあると思う。
俺が参加した成人式も例に漏れずあり、親のすすめもあって飲み会に来てみたもののよくよく考えると顔合わせたい奴とは今でも連絡を取っているし、わざわざ会いたい奴もいなかった。
ので、男友達のグループとビールを飲んでいた。呑み放題だから酒、飲まずにはいられない!!というわけで酒を飲む。ぐびぐび。
それぞれにグループを作って昔話やお互いの近況の話でどこもかしこも随分と盛り上がっていて、俺も同級生と盛り上がっていたが、俺のいるテーブルでふっと仲が良かった“アイツ”の話が出た。
「信彦。そう言えばお前と仲良かったルージュラ、バツイチ子持ちになったんだってな」
バツイチ子持ち、と聞いてどくん、と心臓が音を立てたのを感じた。
ルージュラ、というのは中学まで一緒だった女子、広田薫(ひろたかおる)の事だ。
いつも日に焼けていて、男子みたいに短い髪の毛で色気もない。唇が厚ぼったいけれども顔は綺麗な方だったと思う。気さくで男女分け隔てなく話しかけるのでクラスの大抵の奴と仲が良い奴だった。
誰が言いだしたのかはわからないが中学二年生の時に一緒のクラスになったときにはルージュラと呼ばれていた。今思っても特徴をとらえた渾名だよなとじわる。
そんなルージュラと俺は何故かウマがあい、というよりもルージュラのテンションに付き合うのとウザ絡みするルージュラをいなすのが抜群に上手かったので中学を卒業するまではルージュラとよく絡んでいたと思う。
「……へぇ」
平静を装いながらビールを飲むが、さっきまでは感じていたうまみを感じない。ルージュラとの事で頭がいっぱいになってしまったからだ。
「でも意外だよなー、俺ノブとルージュラ付き合ってると思ったもん」
無責任にイチガキが言いながらグビグビとビールを飲む。こいつ酒強くなかったような?まぁいいか今日は無礼講だし。
このイチガキ、本名は市井といい、歳の癖におっさんというかジジイ顔のこいつは実家が近所の幼馴染の男子で、どこぞの漫画の悪役と顔がやばいくらいそっくりで小学生のころからイチガキと呼ばれていた。毛髪の量以外はまんまうり二つってぐらいだったのと苗字に“イチ”が入っているのも渾名を不動にした所以だった。確か昔は本人はその渾名を不服そうにしていたがその漫画が終わった後もズルズル呼ばれて定着してしまってからはあきらめてイチガキという渾名を受け入れていた。当然、同窓会の今でも普通にイチガキと呼ばれている。
「いやぁー、そういうもんでもねーよ。高校は別だったしな」
イチガキに言葉を返しながらまたビールをグビグビと飲む。先祖代々超ウワバミの家系で『おしゃけだいしゅきぃぃぃアルコールでハッピー!』なので酒を飲む手は決して止めない。しかしルージュラの話になると味が解らなくなるからやっぱり俺も思う所はあるんだろう。
「ふーん。そうかよ。……まぁノブかっこよくなったしヤリまくってんだろ、誰か紹介してくれよ」
「バカいえ、俺は童貞だよ童貞。童貞も守れない奴に何が守れるっていうんだ」
「それは脱童貞が出来る選択肢を持つ奴が言っていい言葉じゃねーんだよぶち殺すぞデカチン野郎。謝れよサークルの女子どころか同じゼミの女子にすらメアド教えてもらえない俺に謝れよクソヤリサーがよぉ」
誰がヤリサーやねん。
酔いが回ったのかイチガキが面倒くさい絡み方をしてきて困ったので周囲に視線を動かすと、同じテーブルにいたやつらがササッと別のテーブルに移動していった。どいつもこいつもメタル系モンスターかよってくらいに逃げ足が速い!!
「俺みたいなブサイクはなぁ、何をやってもモテないんだよ!髪型変えてコンタクトにしても、初日には触れられたこともあったけど大半の女子にスルーされたんだぞ!!顔面そのものがブサイクなのは美容院行こうと眼鏡をコンタクトにしようとどうにもならねえんだよ!ブサイクのかなしみがお前みたいな腹筋バキバキ細マッチョ爽やかくんにゃわかんねーんだよ、俺が大学でなんて呼ばれてるかわかるかよカジモドだよカジモド、略してカジくんだぞ。略してねーけどな!可愛い女子がイケメンにかっさらわれてれるのを指加えて観て鐘ならす係だってか、バカにしやがってクッソォォォォ」
絡み上戸と泣き上戸をブレンドしたクッソだるい飲み会クラッシャーと化したイチガキもしくはカジモドだが、放っておくわけにもいかないのでどうしたものかと悩んでいたところでぐい、と誰かに腕を引っ張られた。
「―――ノブ、久しぶりじゃん」
引っ張られた先を見ると、ひとりの女がいた。
肩より少し長く伸ばした黒髪に、ピアス。ほんのりとした化粧は濃すぎず素材の良さを引き立たせるように、そしてあの頃と違って真っ白い肌に、あの頃と同じ少し厚ぼったい唇。パーツは何一つ変わっていないのに、雰囲気が変わるとこんなに色気を醸し出すのかと思わせる。バツイチ子持ち、と言っていたが、中学の時と違って今は胸のふくらみが、ドレスの胸元から自己主張している。一言でいえば、すごく、とても美人になったと思う。
「お前ルージュラか」
「…!!あはははは、ヤバい、なついそれ!めっちゃ久しぶりに言われた!」
ルージュラと呼ばれて、からからと笑うその笑顔は、確かに俺の良く見知った笑顔だった。……あの夏の日に置き去りにしてきたはずのものだった。
「そっちこそドドリアのくせにめっちゃ痩せてカッコよくなってんじゃん」
仕返しとばかりに俺がかつて呼ばれていた渾名で返してくるルージュラ。中学の頃の俺は坊主頭のデブだったのでドドリアと呼ばれていた。小学生のころからの付き合いの、家が近所の友達はノブと呼んでくれているがそうでない同級生には、俺の呼び名はドドリアの方が印象深いだろう。しかしルージュラはあの頃から俺の事をノブとよんでいたし、これはルージュラなりの意趣返しと言ったところか。
「シュッ!鍛えてますから……ってな、久しぶりだな広田」
「いーじゃんいーじゃんすげーじゃん?ねぇノブ、ちょっと話そうよ」
クダをまき疲れて机に突っ伏していびきを立てているイチガキを見て、場の空気を最悪にして勝手につぶれるとかお前はそんなんだから大学やサークルで腫れ物扱いされたり女子に持てないんじゃなかろうか、見た目というが中身にも問題があるぞ、と思って哀しく目を伏せてから、俺はルージュラもとい広田に頷いた。
「そうだなぁ。あのテーブル空いてるから移動するか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます