第2話 【ASMR】あなたのためなら……

   SE鬼怒川、川のせせらぎ。

   #台詞に被りながら、ゆっくりフェードアウトしていく。


日向

「失礼しまーす! あ。起きてるー。」

「あーいいよいいよ。そのまま楽にしてて。あたしがそっち行くから。」

「よっ! ほっ! よっと! にひひ~♪ これで向かい合わせだね!」


「あれ? なんかキョトンとしてる。もしかして状況飲み込めてない?」

「おっかしーなー……。あたしの手刀、キレイに決まったはずなんだけどなー……。」

「当たりどころがずれて、記憶が飛んじゃったのかな? うまく拉致できたと思ったのに……。」


「って、じょーだんじょーだん! いや手刀はホントだけど。ちゃんと説明するから、そんな目で見ないでよ、湯者【ゆうしゃ】さん♪」

「えー……こほん! 改めまして、ここは、あたしの地元・鬼怒川温泉だよ。」

「起きた時、川のせせらぎが聞こえたでしょ? あれ、鬼怒川の流れる音。あたしたちがいるこの旅館のすぐ裏を流れてるんだ。」


「で。どうしてあなた――湯者さんがここにいるかっていうと~……、ん~どっから説明すればいいのかな。」

「あっほら、あたしたち温泉むすめで、地元の温泉を盛り上げるために色々やってるでしょ?」

「湯者さんはそれをいつも応援してくれてて、だから、何かお礼したいなーって思って、彗ちゃんと環綺ちゃんに相談して……。」


「そしたら環綺ちゃんが『鬼怒川温泉に連れてっちゃえばいいんじゃなぁい?』って言ってくれたから、『これだ!』って思って。」

「あとはこう、日光江戸村の忍者のごとく湯者さんの背後に忍び寄り、その首筋に手刀をスパァン!」


「……あれ? 何の話してたんだっけ。うあー、あたし説明下手だ……。」

「でもでも、さすがにいつもはここまでとっちらからないよ!?」

「湯者さんとふたりきりになって、すぐ近くで話してるせいかな、なんか調子狂うっていうか、胸の奥がムズムズして、考えがまとまらなくて……。」


「ちょっ、何?! その目?! あーーもうっ! こっち見るな! やっぱ向かい合わせナシ! 隣同士! 隣同士がいいよ!」

「うーーー……。顔から火が出そう……。温泉上がったあとみたい……。」


   #以降、左から。


日向

「よぉし。これで隣同士だね。ちょっと 落ち着いた。」

「なんの話してたんだっけ……あ、そうだ。」

「とにかくね、あたし、いつもお世話になってる湯者さんにお礼がしたいの。」


「温泉むすめのこと支えてくれてありがとう、あたしのこと、気にかけてくれてありがとう、って。」

「でもなー。ひとつ問題があるんだよなー。」

「あたし、体を動かすことなら誰にも負けない自信があるんだけど……誰かにお礼するとかは分かんないんだよねー。」


「そもそもあたしどこ行っても浮いてたし、こうしてお礼するくらい仲良くなった人なんてほとんどいないんだ。」

「温泉むすめ師範学校に入ってからは、んと、彗ちゃんでしょ? 環綺ちゃんでしょ? で、湯者さんで三人目。」

「んふふ、嬉しい? あたしは嬉しいよ。」


「……。」


   #左からそのまま距離を詰める。より吐息が感じられる距離感に。


日向

「ねえ……湯者さん? どんなことしてほしい? 湯者さんはどんなことを喜んでくれるの?」

「どっかでデートする? それとも、温泉で背中流そっか? あたし、湯者さんのためならなんでもやるよ。」

「他にも……ほかに……えー……あれ?」


   #通常に戻る。距離も離れる。


日向

「なんだっけ? …………。」

「あー……あのね、環綺ちゃんにもらったメモにこうするといいよって書いてあったんだけど……続き忘れちゃった。」

「……うん。そう。どういうお礼すればいいかも、彗ちゃんたちに相談したの。」


「そしたら環綺ちゃん、面白がってどんどんカゲキなことやらせようとするんだよ……あーんなことや、こーんなことまで……。」

「できるかっての! あーナシナシ! 忘れて!」

「とにかく! せっかくの温泉だもん。これから湯者さんには思いきりリラックスしてもらいます!」


「ちゃんとしたプログラムも考えてきたから、安心してあたしの声に身を委ねてね♪」

「湯者さん、準備はいい?」

「じゃあ、早速始めよっか……あ。でも、そ・の・ま・え・に♪」


   #右から、囁き耳打ち。


日向

「さっきのは台本だったけど……湯者さんのためならなんでもやれるのは、ホントだからね♪」



《第3話へ続く》


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『ASMRボイスドラマ 温泉むすめ あなたになら甘えられる鬼怒川日向』(CV・富田美憂)

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