ヌードをとりたい。古いカメラに導かれて、写真もあれも

ひぐらし なく

第1話 カメラ

 じいちゃんの葬儀があったのは、昭和四十九年の夏のことだ。大分県国東半島のM町で町議をしていたじいちゃんは、心不全で突然亡くなった。まあ七十歳も超えていたので大往生と言えるのかもしれない。

 葬儀なんて行きたくはなかったがそうもいかない、親に連れられてしんは大分にやってきた。


「物置の中にいろいろあるから、ほしいものがあったら持っていきなさい」

 おばあちゃんが集まった一族を見渡していった。形見分けというわけだが、誰もあまり乗り気ではなさそうだ。

 というわけで、深は一人で物置に入った。


 おじいちゃんは趣味人だったのだろう、楽器からスポーツ用品、本に組み立てられたプラモデル。十六の自分の部屋と言っても通りそうな玩具が並んでいる。確かに親たちがほぼ無視したのはわかる。


 できればこの部屋ごとほしいな、だけどこれだけの量のものをもって帰ったら、深の家では置く場所がなかった。

 取りあえず何かということで、ガットギターを手に取り物置を出ようとしたとき、何かに呼ばれた気がした。


 振り向いた深の視界に皮のケースが映った。なんだろうと思って手に取ると、ドイツの有名なカメラメーカーの刻印が読めた。

「カメラか、高そう」

 ケースを開くとレンズが二つ付いて確か二眼レフとか言うカメラだった。手に取るのはもちろん初めてだったが、なぜか扱い方はわかった。

 レンズキャップをとり、上からのぞくファインダーを見ながらピントを合わす。シャッターもきちんと動いた。


「おばあちゃん、この二つもらっていい?」

「ああ、何でも好きなものあったらあげる。深が使ってくれたらおじいちゃんきっと喜ぶよ」


 あと、できたらまだ欲しいものあるから、物置の中そのまま置いておいてくれないって頼むと、それも二つ返事で了解してくれた。

「そうかよかったな、じゃあ当分の間、深は何もいらないってことかな」

 父親が笑いながら言うが半分以上本気に思えた。


 瀬戸内海を通るフェリーに乗り、親より一足先に亮は京都に帰ることにした。取りあえず親は一等船室を取ってくれた。お金は実家から出るそうだ。

 フェリーの中で深は夢を見た。

「ヌードをとりたい、風景なんて、鉄道なんて、女だ。ヌードだ」

 誰かが叫ぶ。

「おい、深、お前が撮ってくれ。大丈夫だ、段取りは俺に任せろ」


 深は何かに導かれるように起きると、カメラを手に取りデッキに出た。

 プロムナードに出たとたん、目の前の女性のスカートが風に翻った。

 フレアのワンピースが胸の下までまくれ上がり、女性は小さく悲鳴を上げた。

 同時に帽子が飛び、深の足元に転がってきた。瞬間やばいと思ったが仕方がない。深は帽子を拾うと女性に差し出した。

「見た?」

 深は首を横に振った。嘘だった夜目にも白いレースのパンティーをがっちり見ていた。


「ま、いいか君、可愛いから」

 可愛い?そんなことはじめて言われた。夜だからよく見えていないのだろう。

「お姉さんの方がもっとかわいいですよ、できたらヌード写真を撮らせてもらえませんか」


 深は手にしたカメラを見せた。

 それよりも自分で驚いている。俺はいったい何を言っているんだ。

「君名前は」

 女性はちょっと驚いた顔をしたが、何かを感じたようだ。笑顔を見せた。

「服部深です」

「服部君かあ、一人?なわけないよね」

「いいえ、今回は一人です」

 深は必要もないけれど、ざっとフェリーに乗っているわけを話した。


「とってもいいけど、ここじゃいやだな、私の部屋にくる」

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