第93話 白の曜日のデート

第92話と同時投稿です。


 今日は白の曜日ですが、外は雨が降っているため、久しぶりにサロンでお茶会デートになりました。……最近の日常風景ですわね。

 私の向かい側に席があるにも関わらず、アルは私の隣に座っています。


 昨日はあれから、アルを落ち着かせて、三番目にお父様を必ずガラクシアース領に連れて帰るようにお願いして、何事もなかったように、アルの執務室に戻ったのでした。


 王城の外壁を壊した修繕費を請求されなくて良かったですわ。


「国王陛下は治療師のお陰で、命はとりとめたらしい」


 違いましたわ。国王陛下が動けないために、まだ請求が回ってこないだけかもしれません。


「あと二日程、回復にはかかるそうだ。ガラクシアースを怒らすとどうなるかは、身にしみてわかっただろうな。しかし、フェンリルまでも王都にくるなんて、妖精女王の容赦の成さは、恐ろしいものを感じるな」

「え? フェンリルが王都に来たのも、妖精女王様の指示なのですか?」


 フェンリルと妖精女王と繋がりがあったのですか? どうみても繋がりがあるようには見えませんわ。


「状況的にそうだろうなという予想だな。そもそもガラクシアースを住処にするフェンリルが王都に来ること自体が異常だろう?」


 それは確かに普通に考えてもあり得ないですわね。


「シアは……フェンリルが、す……好きなのか?」


 アルは何故か言葉をつまらせながら聞いてきました。

 その話は以前もしたと思うのですが?


「フェンリルの背中で、お昼寝するのが好きなのです」


 あのもふもふに包まれて寝るのがいいのですわ。それは昔からですのに、なぜ今更聞いてきたのでしょうか?


「フェンリルが好きなわけではない?」

「……ん? フェンリルは抱きつたぐらいでは、壊れないから好きですわよ?」


 あの? この質問は何が聞きたいのかわかりません。それにフェンリル限定なのは、なぜなのでしょう?


 するとアルが私に向かって、両手を広げてきました。これは私にどうしろと?

まさか私に抱きつくようにと?


 え? フェンリルとアルとは違います。私がアルに……だ……きつくな……んて、はずかしい……です。


「あの……アルさま? これは……」

「抱きついても大丈夫だ」


 やっぱりそういう意味なのですか!

 わわわわ……わたしが、あるさまに……だきつく……のですか?


 凄く、期待している目で見られています。ちらりと、横目で侍従コルトを見ます。あらぬ方向を見て、私と視線を合わせてくれません!


 これは、アルに私が抱きつかなくてはいけないのでしょうか。う〜……心臓がバクバクとうるさいです。


「シア。おいで」


 ……ぐふっ。

 フェリシア。このまま前に手を伸ばすだけでいいのです。こういうことも慣れないといけないのです。……慣れるのでしょうか?


 心臓を落ち着かせるように、大きく深呼吸して、アルに手を伸ばして、抱きつきます。

 くぅぅぅぅ恥ずかしいですわ。

 これ、アルに私のバクバクと鳴る心臓の音が聞こえていませんか?


「シア。俺のこと好き?」

「え? 好きですわよ?」


 何を確認されたのでしょう? アルのことは昔から好きですよ。


 するとアルは固まってしまいました。どうしたのでしょう? それから、私はいつまでこの状態なのでしょうか?

何か徐々に背中から締められているいるような?


「シアから好きって言われた」

「以前も言ったことはありますよ?」


 あの? ギリギリと背中から締められていませんか?

 アルとは私が生まれてから婚約者としていますし、よく一緒に遊びましたし、私が王都に来てからは、週に一度はお茶会をしていましたし、アルのことを好きなのは昔から変わりませんよ。


「三週間後に侯爵の地位を引き継ぐときに、結婚しよう」


 どこから結婚の話がでてきたのですか? 結婚式には色々手続きがあるのですよ。一年ぐらい前に……せめて半年前ぐらいに事前に招待状を出しておかないといけないのです。三週間後は流石に無理ですわ。


「アル様。そういう話はネフリティス侯爵家とガラクシアース伯爵家の話になってきますので、侯爵様とお父様に日程の方はお任せするべきかと思います」


 お父様にお任せしても、いつでも言いよといいそうですから、正確にはお母様にお任せすることになりますわ。


「アルフレッド様。フェリシア様。少しよろしいでしょうか?」


 私と視線を合わせてくれなかった侍従コルトが、話しかけてきました。いつもは空気のように存在感を無くしていますのに、どうしたのでしょう?


「どうした? コルト」

「はい。神王の儀の後は、各貴族の当主の交代が行われるとお聞きしたことと思います」

「そうだな。そして、当主は王都に詰めておくだったな」

「そうでございます。神王の儀の後は、この国は戦いを強いられます。ですから特例として当主の引き継ぎの書類と婚姻届を同時に提出できる法律がございます」


 え? 新しい当主が立つと同時に、伴侶を得ることが認められているのですか? もしかして、跡継ぎ問題ということですか?


「それから王都に各家の当主が王都に集まってきますので、そこで交流が行われます。社交も必要になってきますので、伴侶のご夫人の存在は重要になってまいります」


 侍従コルトの話を聞いて、私は絶望しました。社交……社交……しゃ……シャルロット様から言われたことや、されたことが、走馬灯のように流れていきます。


「私ではお役に立てそうにありません」

「シア! シアが居ないと俺が侯爵になる意味が全くもってない!」


 アルからおかしな言葉が出てきました。これではまるで、私のために侯爵の地位を得たような言い方ですわ。


「シアが人前に出るのが苦手なのは知っている。苦手だから常識から外れないように、常識に囚われているのも知っている。でもそれは全て、あのシャルロットの所為だろう?」


 シャルロット様の所為といいますか、シャルロット様に色々失礼なことを、私がしてしまったからです。


「あのシャルロットは、もう王都には居ない。北の修道院に送られたと聞いている」

「え? 修道院なのですか? 領地に戻られたのではなくて?」


 これは予想外でした。私はてっきり領地で療養という形をとると思っていました。

しかも北の修道院とは冬は雪と氷に覆われて、とても厳しいところと噂に流れているところですわ。


「恐らく一生そこから出ることはないだろう」


 修道院。そこは自分で何もかも身の回りのことをしなければなりません。妖精女王からくだされた判決から言えば、もっともシャルロット様が生きることに適した場所と言えます。

 ですが、妖精女王曰く、一年保つか二年保つかと言われていましたので、修道院で心安らかに過ごされることを願っていますわ。


「いい気味だ」


 ……あの……アル? そのような言い方はよろしくないと思います。


「だから、シア。社交なんてしなくていい」

「アル様。言っていることがおかしいです」

「いや、はっきり言って社交なんてする必要はない。ネフリティスが誰かにへりくだる必要はない。それにフェリシアはどう見てもガラクシアースだ。堂々としていればいいのだ」


 これはネフリティス侯爵家がリアンバール公爵家の血筋だからでしょうか? やはり妖精様の血族というのが、他の貴族の方々と違うからでしょうか?


「コルト。父上に三週間後にシアと結婚すると伝えれば、いいってことだな」

「はい。恐らくそのように旦那様は動いていらっしゃると思います」


 ネフリティス侯爵様が、アルと私の婚姻を三週間後にするために動いているのですか!


「昨日、旦那様が小言を漏らされて『まさか犬に嫉妬するバカだったとは』とため息を吐かれていました。その言葉を聞いた大旦那様が、書類だけでも先に提出すればいいとおっしゃっておりました」


 これは前ネフリティス侯爵様も三週間後の婚姻に賛成しているということですか。


「犬だろうがフェンリルだろうが、シアに抱きつかれているなんて、羨ましすぎるじゃないか!」

「こういうところがなければ、ネフリティスを継ぐにも何も問題はないと旦那様が申されておりましたよ」


 侍従コルトが孫を見るおじいちゃんの顔でアルを見ています。

 というか、アルは三番目に嫉妬していたのですか? 相手はフェンリルですのに。


 しかし、ネフリティス侯爵様が最初に跡継ぎとして名を出したのはファスシオン様でしたが、アルの異常行動が問題視されていたのですね。


「シア」

「はい」

「大好きだ。愛している。この世界にシア以上に必要なものなんて存在しない」

「……」


 それは存在すると思います。


「だから俺が幸せにしてやるから、結婚しよう」


 うーん? ちょっと違いますわ。


「アル様。二人で幸せになるのですよ」

「そうだな。シアと一緒に幸せになるために結婚しよう」

「はい」


 私はニコリと笑みを浮かべて返事を返します。

 元からアルと結婚することは決まっていましたが、二年も早まってしまいました。しかし、それを私が否定することはありません。


 だって昔からアルのことは大好きでしたもの。


「アル様。私も大好きですよ」

「くっ……幸せ過ぎて死ねる」


 アルが天井を見ながらおかしなことを口にしています。そんなことで人は死なないと思いますわ。


 これから始まるアルとの結婚生活はどうなるのか不安もありますが、変わらない生活が続いていくような気もします。

 それにこれから本格的にこの国は暗黒竜の残滓との戦いが始まって行くのです。私はきっとガラクシアースとして戦いの場に立つことでしょう。


「シア。結婚しても赤竜騎士団の顧問の仕事は続けような」

「え?」

「そうすれば、朝も昼も夜もずっとシアと一緒に居られるだろう?」


 一緒……ちょっと一緒に居すぎるような気がします。


「幸せだなぁ」

「はい」


 幸せだと言うアルを見て、私も幸せですよ。アル様。


___________


ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。


えっとこの作品は小説家になろう様にて、短編だったものを読者様の要望にお応えして長編化したものになります。

それでストックがないまま書き続けてきまして……アルフレッドが侯爵の地位に得ることになったという結末で、一旦閉じさせていただきます。これは一つの結末として考えていたものです。


これだけフラグ立てておいてこれはないと思われるでしょう。

ですので、もうこれで完結でいいよ、となればここで終わりにします。

暗黒竜編が読みたいとご要望を、複数承れば、続きを書きます。

(これは投稿している複数のサイトからの総合で承ります。)


ただ読まれていておわかりでしょうが、一ヶ月半の話が40万文字超えているので、凄く長い話になると思います。


あと一話5千文字がきついので一話の文字数は減ると思います。それをご了承いただけるのであれば……


いつも応援いただきましてありがとうございます。とても励みになっております。

☆評価ありがとうございました。


ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る