兄の幼馴染がなかなか告白しない

歪祈

第1話 

「ねぇ、ここがわからないんだけど。」

「それはね、この公式を使って…」


 ある土曜の昼時、私は自室で教育熱心な小学校教諭の出した宿題に彼女と取り組んでいた。彼女の名は小鳥。近所に住むお姉さんで私の兄の幼馴染である。この春、高校進学を果たしたまさに花のJKというやつである。


「それで小鳥ちゃんは何しに来たの?今更だけど。」

「えっ!そ、それはもう空ちゃんと宿題をしに来たんだよ。」

「そう。お兄ちゃんならクラスの人と遊びに行ってて夕方ぐらいまで帰ってこないと思うよ。」

「へ、へぇ~そうなんだ。」


 そう言う小鳥ちゃんの目は泳いでいた。


「さっさと告白しちゃったほうが早いと思うよ。」

「それはちょっと…、」


 小鳥ちゃんは私の兄に惚れているのだろうと思う。いつから好きなのかは知らないが少なくとも3年ぐらいは片思いしているはずだ。どうせ本当は今日も兄に会うのがメインだったのだろう。兄の都合が合わなかった場合に備えて私と宿題をするというサブプランを用意しているあたりなかなかの策士だ。と思ったがそもそも兄の予定を確認しておけば済む話だし、私も急遽誘われた身だ。


「将を射んとすれば馬を射よ、とは言うけど馬ばかり撃って将を撃たないんじゃ意味が無いよ、小鳥ちゃん。さっさと本命を撃ち殺そうよ。」

「撃ち殺すなんて物騒なこと言わないで。あと正確には将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、だよ。」

「そんなのは良いから。私を出汁にしてお兄ちゃんに会うのは良いけど、私ばかりにかまってるとお兄ちゃんとの仲が進展しないどころか、他の人に先を越されるよ、このままだと。」


 そう、兄は今日クラスメイトと遊びに行ってるが、男オンリーではなく女子も混ざっているらしい。その女子が兄を狙っているという証拠はないが、昔からラブコメの主人公かというほど周囲から好意を向けられているのが兄である。


「こう見えて空ちゃんが見てないところでアピールしてるから大丈夫だよ。」

「本当に?そのセリフかれこれ2年ぐらい聞いている気がするけど、大丈夫? そろそろ対抗馬出てくるんじゃない、時期的に。」

「だ、大丈夫だよ。今日だって男女グループで遊びに行ってるだけだし、付き合いは私のほうが圧倒的に長いから、全然リードしてるよ。それに彼あんなだし。」


 そういう小鳥ちゃんの顔は優位性を示す言葉とは裏腹に、ダメそうな顔だった。

ラブコメ主人公な兄にいまだ彼女がいない要因の一つは鈍感だからである。そのため直接告白をしなければ気持ちに気づいてもらえないのである。二つ目の要因としてヒロイン候補たちが互いをけん制しあいなかなか告白イベントまで進まないことだろう。中には告白イベントを発生させた猛者もいたが好感度が足りなかったのか振られている。高校進学でほとんどのヒロイン候補が消えたがそろそろ新しいヒロイン候補がレースに参戦するだろう。

 そして小鳥ちゃんがいまだに兄と付き合えない理由は告白しないからである。本人の顔も性格も良く、幼馴染という長い付き合いという関係性、ヴァレンタインも毎年渡しているが、告白をしないため兄からは仲のいい幼馴染、良くて異性で一番仲が良い人という評価だろう。


「はぁ、お兄ちゃんは告白しなきゃ意味がないと思いうけど、どんだけリードしてても。」

「そうなんだけどねぇ?」

「まぁいいや。宿題終わったしお昼にしよ、おなかすいたし。」

「そうだね。何にしようか?リクエストがあれば作るよ。」

「じゃぁ、オムライスで。」


 宿題を終えた私と小鳥ちゃんはそんな会話をしながら部屋を出てキッチンに向かう。そして小鳥ちゃんにオムライスを作ってもらいおいしく食べた。

 食べ終えた私たちは部屋に戻らずリビングでゲームでもして遊ぼうかと話していると兄が帰ってってきた。


「ただいま~」

「おかえり」

「お帰りなさい。あれ、陸君夕方まで出かけてるんじゃなかったの?」


 兄の予定よりも早い帰宅に小鳥ちゃんは驚いているようだった。


「空からゲームで遊ぼうってLineがあったからすぐに帰ってきた。」

「えっ!」


 小鳥ちゃんが驚いて私を見る。さっきオムライスができるのを待っている間に兄に送っていたのだ。


「ほら、準備終わったから早くゲームやろ。」

「おう。」

「うん。」


 まったく、小鳥ちゃんにはさっさと告白してヒロインレースを終わりにしてほしいものだ。



 てか、兄よ友達と遊んでる最中に妹からゲームに誘われてすぐ抜けて帰ってくるのはキモイな、冷静に考えるとちょっと。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

私(空):

 小鳥が兄に会うための出汁によくされている(なっている)。最近はヒロインレースがさっさと終わることを願っている。

 小鳥のことは大好きで、可能なら兄と付き合ってほしいと思っているが、兄に振られて疎遠になったり、兄以外の彼氏ができて関りが減ることを危惧しているだけで実は兄と恋人になることは重要ではない。ちなみに兄に小鳥はもったいないと思っている。

 兄のことは特に好きでも嫌いでもない。


小鳥:

 空の兄の陸に片思い中(6年目)である。陸に会うためによく空を出汁にしている(なってもらってる)。今回、陸が遊びに行くことは知っており、空と遊ぶために来ており陸とあいさつぐらいできればいいなと思っていた。

 ヴァレンタインには毎年、陸にチョコを渡すだけでなく空と交換をしている。


陸:

 空の兄で小鳥の幼馴染である。空にあまり懐いてもらえない。そのため今回のように誘われるとすぐに了承して他の用事をすぐ切り上げる。このことから周囲からシスコンじゃないかと思われている。ちなみに自分が誘われるのは小鳥がいるときと気づき始めており、空と小鳥が遊ぶ時、実は期待しているしスタンバイもしている。

 ヴァレンタインには毎年、小鳥や女子からチョコをもらう。空からは一度ももらったことがない。

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