ずっと聴いていたい君の音2

ひみこ

第1話 グラウンド


 風の強い日。


 彼女の短く途切れた呼吸音がグラウンドを軽やかに駆ける足音とともに近づいてくる。

 眼の前を彼女が通り過ぎ、そして遠ざかっていく。


 午後の学校のグラウンドでは部活動に精を出す生徒たちの声が響く。


 グラウンドをぐるりと走ってきた彼女が、激しく呼吸を乱したまま歩いて近づいてくる。


 女子陸上部で唯一、1500m走の選手として選ばれた彼女は他の陸上部の生徒がすでに下校した後居残り練習をしていた。


 たっぷりと時間を掛けて呼吸を整えた後、ようやく彼女が口を開く。

 まだ息は完全には整っていない。


「はあはあ。先生、今の、どうだった?」


 段々と呼吸が整っていく彼女。

「そっか。うん。フォームは? そっか。わかった。次は気をつけるね」


 彼女は先生の返答が意外だったように驚いた声を出した。

「え? もう今日は終わるの? なんで? あたしまだ走れるよ? 大会だって近いんだし、もっとがんばらないと……」


 先生から説明を受けた彼女は煮えきらない返事を返す。

「……そっか。そうだね。そうだよね」


 強い風が拭いて砂塵が舞う。

「んっ なんだか風も強くなってきたし、空もなんだか暗くなってきたね。台風がきてるんだっけ? それじゃ仕方ないか……でもあたしはもっともっと走らないといけないのに……」


 遠くの方で空がゴロゴロと鳴っている。 


「なんでそんなに無理するのかって……別に無理はしてないよ。大会で良い記録出したいなって思ってるだけ」


 そういう彼女の声は空と同じように曇っている。


「でも他の部活もどんどん中止になってるみたいだね。風もかなり強くなってるし。予報ではそれるって話じゃなかったっけ」


「え!? 進路がそれて直撃のおそれがあるの!? 見せて!」

 そういって彼女はスマホを覗き込む。二人の顔が急接近する。


「これはヤバそうだね……これじゃ確かに今日はもう練習はできないか……」


 離れた彼女に再び今日の部活を終了することを伝える。


「うん。わかった。じゃあまた明日も居残り練習付き合ってね?」


「さすが先生! あ、待って。あたししかいないけど、一応いつものやつやっとこうよ」


 先生の返答に呆れたように彼女は早口で言った。

「どういう意味って、意味なんかないって。はい、やるよ! 先生はそこに立って」


「集合! 礼! ありがとうございました! へへ!」

 彼女は一人で部活終了時のルーティンをやると、いたずらに笑った後部室へとかけていった。


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