私の中の私ーThe Detective KP

KPenguin5 (筆吟🐧)

プロローグ

第1話 BAR KING

薄暗い部屋にバーカウンターがあり、マスターがカウンター内でグラスを磨いている。

僕はカウンタの席に座りパソコンをいじっている。

バーカウンターと酒が並んだ棚のみがあり、赤を基調とした内装だ。

ここは、神保町にある雑居ビルの3階にあるBAR「KING」。

神保町は言わずと知れた本の街であり、書店が多く並ぶ街である。


「なぁ、紫音、イマジナリーフレンドって知ってる?」

パソコンをいじりながら紫音に話しかけた。

カウンターの中の男は、平井紫音。このバーのマスターだ。

そして、平井紫音の一つ後輩の僕。境田迅という。

「いまじなりーふれんど?何それ?」


「イマジナリーフレンド。空想の中にだけ存在する人物と会話したり遊んだりすること。または、空想の友達のこと。なんだって。通常は幼児期に現れるんだけど、まれに成人でもイマジナリーフレンドを持っている人がいるらしいよ。」

「へぇ~。で、またなんでそんなこと言い出したんだ?」

「いや、さっき下に配達に行ったときに、マリリンママが話してたんだけど、ママの甥っ子が、あ、小学一年生らしいんだけどね。最近独り言を言うようになって。で、ママの妹、つまりその甥っ子の母親が、何をしゃべってるのか聞き耳立ててたら、なんか、誰かと会話してるみたいだったんだって。妹が気味悪がって、どうしたらいいかマリリンママが相談されたんだって。そしたら、それってイマジナリーフレンドなんじゃないかって、お客が言っててさ。で、気になって少し調べてみたんだ。

幼児期に一人遊びの延長みたいに現れるらしいよ。」

「へぇ~。」紫音は、あまり興味がなさそうだ。


この雑居ビルは3階建てだ。

1階は神保町らしく、古書店だが、2階はゲイバー「Queen」、そして3階がこのBAR「KING」が入っている。

僕の実家は、境田酒店という酒屋を営んでおり、この辺一帯の飲み屋に酒やら飲み物を配達している。QueenもKINGもうちのお得意さんだ。

僕は、実家の配達の手伝いをしながら、普段はフリーのプログラマーをしている。

いつも、配達終わりにKINGで仕事をしながら、紫音とのおしゃべりをするのが日課になっている。

だが、長居しすぎると、たまにこの紫音に僕は巻き込まれることになるんだ。


この日も、また僕は事件に巻き込まれることになった。


カランカラン

このバーの入り口には昭和な音のする呼び鈴がついている。

「いらっしゃいませ~」

紫音が気のない声で応える。

入ってきたのは、すごくきれいな女性だった。まるで今にも消えてしまいそうな儚い雰囲気を醸し出して、店の中に入ってきた。少しうつむいて悲し気というか寂しげな雰囲気もあいまって、なにか助けてあげたいそんな衝動に駆られる女性だ。


「ここ、よろしいですか?」

カウンターの端の席を指さしてその女性は紫音に聞いた。

「どうぞ。ご注文、お決まりでしたら伺いますよ。」

紫音はおしぼりを出しながらその女性に言った。

すると、その女性は、張り詰めた声で、

「赤い涙をください。」

その一言を聞いた僕は、あぁ、また僕は巻き込まれるのかぁとパソコンの画面越しに思った。そんなに暇じゃないんだけどなぁ。

「かしこまりました。」

紫音はそういうと、赤い涙というカクテルを作り、その女性の前に、コースターと赤い涙を置いた。


実は、紫音はこのバーのオーナーとは別に、探偵業もやっている。

探偵事務所「KP」という探偵事務所だ。

この探偵事務所の依頼方法は少し変わっている。

まず、BAR KINGで、カウンターの端の席に座り、「赤い涙」というカクテルを注文する。

すると、そのカクテルについてくるコースターに電話番号と合言葉が書かれてあり、そこに電話をして合言葉をいうと、カフェと日時を指定され、そこで依頼を受けるというなんとも回りくどい依頼の受け方だ。

一度、なんでそんな回りくどいやり方をするのかと紫音に聞いたことがあるが、紫音は

「もったい付けて依頼を受けたほうが、なんか価値あるだろ?」

と、けろっと言いやがった。大した理由はないらしい。

そして、なぜか僕はその探偵業を手伝わされている。


その、女性が帰った後、紫音は僕に

「なんか、不思議な感じのする人だったね。儚げというか、消えてしまいそうな。」

「紫音、まさかまた変なもの見えてたりしないよね。」

紫音はすごく怖がりな癖に、霊や怪奇現象を呼び寄せる体質らしい。探偵の依頼にもまれにそういった依頼も舞い込んでくることがある。

「いや、彼女からはそんなものは見えなかった。だから、大丈夫だよ。」

(いや、何が大丈夫なんだよ。)と僕は心の中で突っ込んだ。


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