第10話 探り合いのワルツ
夜会も
アメリアとウィリアムはワルツを踊っていた。
先ほどの騒ぎはお互いの両親によって上手く収められ、ウィリアムの父ロバートと、アメリアの父リチャードは両家の繁栄を願い固い握手を交わした。
アメリアとウィリアムは、正式な婚約に至ったのである。
その後ロバートとリチャードはそれぞれの仕事について、またそれぞれの妻は、結婚までの行事をどのように行うかについて話に花を咲かせていた。
必然的にウィリアムとアメリアは二人きりにされる。
ウィリアムはアメリアが誰かとダンスを踊っているところをただの一度も見たことがなかった。社交界デビューを果たした頃のアメリアにはダンスの申し込みが殺到したものだが、それをことごとく断っているうちに誰からも誘われなくなったためである。
けれどルイスは言っていた。アメリアは八歳で全てを完璧にこなしてみせた、と。
ウィリアムはしばらく考えた末、アメリアにダンスを申し込んでみた。断られるだろうかと思ったが、アメリアは迷いなくウィリアムの手を取った。
そういうわけで今、二人はワルツを踊っているのである。
二人はフロアの中央でホールドし、軽やかにステップを踏んでいた。ワルツの三拍子に合わせ、複数のステップを組み合わせながら優雅に回転を繰り返す。まるで長年のパートナーのごとき安定感だ。
ウィリアムの燕尾服の裾と、アメリアの深紅のドレスがテンポよく広がる。
アメリアのダンスは完璧だった。スイングはダイナミックかつ美しく、難易度の高いステップも悠々とこなす。
それに何より、初めての相手のウィリアムの動きの先を読み、ぴったり息を合わせてくる。
ウィリアムはそんなアメリアのはにかんだような笑みを見つめ、考えた。
今ならば、周りに声を聞かれることもないだろう――と。
「ダンス、お上手なのですね」
言いながら、ウィリアムはやや挑発気味にステップを踏んでみた。
だがアメリアは乗ってこない。
「そんな、ウィリアム様こそ本当にお上手ですわ」――そう言って微笑むだけ。
仕方なくウィリアムは、直接的な方法を取る。
「アメリア嬢ともあろう方がご謙遜なさるとは……よもや本当に私に好意を寄せている訳ではあるまい?」
そう言ってニヤリと口角を上げる。すると、アメリアは笑みを深くした。
「あら。そのお言葉、そのままお返ししますわ」
刹那――アメリアの冷たい笑顔に、ウィリアムは悟った。
「……やはり。――なぜあなたは私の申し出を受けたのですか」
「変なことをお聞きになるのね。わたしはただお受けしただけ。理由などないわ」
二人は足を止めることなく踊り続ける。
「だが、あなたは私のことを嫌っておいでだったのでは」
「あら……なぜ? ルイスがそう言ったの?」
「――ッ」
「驚いたのはこちらの方よ。わたしを調べるようにルイスに指示したのは……あなた?」
「……それは」
それはまたもや予想外の言葉で、ウィリアムは咄嗟に否定することができなかった。
まさかアメリアがルイスについて知っているとは――ルイスがアメリアの周辺を調査したことに気付くとは思ってもみなかったのだ。
けれどアメリアは気が付いた。その上でこの縁談の話に乗ったというのか。
「……本当に素直な方」
アメリアは呟く。――と同時に音が止んだ。終曲だ。人が入れ替わっていく。
そのざわめきの中、ウィリアムを誘い出すアメリア。
「ウィリアム様、少し夜風に当たりませんか? わたくし――少し暑くなってきましたわ」
「……ああ、そうだな。そうしよう」
――こうして二人は会場を抜け、先客のいないテラスへと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます