月夜の祝祭

 満ちた月が冴え渡る夜は祝祭が開かれる。


 密かにベッドを抜け出して、灰猫と並んで影を伝い、黒い炎のように揺らめく小さな森へ。アスファルトと湿った腐葉土の境目をまたぐと人の世界は遠のく。


 朽ちた切り株を青白い月光が照らす。暗がりから現れる、人と獣の狭間にあるもの。この世にもあの世にもいないもの。手を取り合って回る。ぐるぐるぐるぐる回る。内と外を隔てる膜が溶けるまで。


 そうして我々は一つの森となり、混沌となり、夜の支配者となる。






「おはようございます」


 はす向かいのお宅の老婦人に声をかけると、彼女は水やりの手を止めて微笑みを返した。


 通りがかったスーツ姿の会社員が軽く会釈を寄越す。


 眠らない夜の住人達にだけ通じる無音の言葉が三人の間に交わされる。


 月満ちる晩に、また。


 不眠の獣達は再び昼の世界のざわめきに溶ける。誰にも知られないまま、仄かに月光の匂いを纏って。

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