69 デート②

 俺は先生の水着を選んであげたのに、どうしてまた水着を見てるんだろう……。

 しかも、さっきより真剣な顔で見てるし。何を見てるんだろう。


「あかねくん! こっち! こっち!」

「はいはい」


 何かいいものでも見つけたのかな……?

 先生のところに行った俺は、その場から一秒でも早く逃げたかった。そこは俺がいる場所じゃないって、本能が叫んでいたから……。俺は……、お揃いの水着を持っていた先生からわけ分からない恐怖を感じる。


 そんな水着、着るわけねぇだろ……!

 しかも、先生の水着は……さっきの水着よりも布の面積が少ない。本当にまずい。


「どう? 私! 二着欲しかったからね、残りの一着はこれにしたい! そしてあかねくんも海行ったことないって言ってたし……。私が買ってあげるからあかねくんはこの水着を着てほしい……」

「み、みなみさん……」

「ダメかな……? せっかく! せっかくここまで来たのにぃ……」

「あの……」

「すっごく似合うはずだよ? あかねくんカッコいいし、可愛いし、私の……好きな人だから! きっと似合うはずだよ?」

「…………」


 そんな風に言われたら俺も断りづらいんだけど、あの水着を着て……先生と一緒に砂浜を歩き回ったりするのか?

 いろんな意味ですごい。そして恥ずかしい。


 そんな恋人っぽいことを……!

 もちろん、今もやってるけど……、海に行ってあんなことをするのはめっちゃ恥ずかしいことだと思う。俺は先生と手を繋いで、一緒に海で何かをする。それを想像しただけなのに顔が真っ赤になっていた。


 俺は変態だったのか。


「ダメ?」

「…………」

「あかねくん?」


 なんか、断ったらすぐ泣き出しそうな顔をしている。


「はい……。着ます」

「じゃあ! 着てみよう! 私も着替えるから、あかねくん着替えてね!」

「はいはい」


 ……


 うわ……。なんで水着を着ると半裸になるんだろう、みたいな馬鹿馬鹿しいことを考えていた。

 そして、先生につけてもらったキスマークが鮮明に見える。

 すごい……、真っ赤だ。しかも、エロい。


「……恥ずっ」

「あかねくん? まだなの?」

「は、はい。着替えました」

「見せて!」


 カーテンの向こうで、お揃いの水着を着た先生が俺を待っていた。

 やっぱり先生は何を着ても似合う人だな。

 でも、さっきの水着より布の面積が少ないからすぐ目を逸らしてしまう俺だった。


「…………」


 あれ、なんか静かだな……。


「みなみさん?」

「…………」


 先生の顔……真っ赤になってるけど……、なんで?


「ううっ———♡!! たまらない♡」

「えっ?」

「あかねくん、今日やばくない? 本当に……やばくない?」

「えっ? な、何がですっ———」


 ドン———。


 それはあっという間だった。俺に抱きついた先生がすぐカーテンを閉めて、そのまま二人っきりになってしまう。この狭い試着室の中で……、今俺と先生がくっついている。なんで、そんなことを……? まさか、周りに学校の人でもいたのか……? ここなら大丈夫だと思っていたのに、やっぱり油断してはいけないってことか、さすが先生だ。


「…………」


 ずっと先生のことを意識していた俺と違って、先生はちゃんと…………。

 ちゃんと……。

 ん? なんだろう。この……、鼓動は……? めっちゃドキドキしてるじゃん。


「はあ……、はあ…………♡」

「み、みなみさん? 大丈夫ですか?」

「ごめんね……。なんか、今日の私ちょっと変…………」

「どうしましたか? 体調悪いんですか?」

「ううん……」


 そう言いながら両腕に力を入れる……。

 確かに、いつもと同じだな。

 いきなりどうしたんだろう……。でも、今はそんなことより先生とくっついていてやばいところが触れている。俺も先生も水着を着て半裸になったから、肌の温もりがちゃんと伝わってくるめっちゃ恥ずかしい状況だった。


 そして先生の体、熱い……。


「私……」

「はい……?」

「早く海に行きたい……、あかねくんと夏の思い出を作りたい」

「じゃあ、早く着替えて……水着を買いましょう。そして帰る前に、一緒に食事どうですか? せっかく……、デ、デート……。ですよね……?」

「うん。これはデートだよね? デート……」


 息ができないっていうか、この状況はさすがに……ちょっと。


「そのキスマークめっちゃ似合う。またつけたい……」

「…………は、はい。つ、次は……見えないところにお願いします」

「うん! 分かった」

「そろそろ行きましょう!」

「もうちょっと……」

「はい?」

「もうちょっと……、あかねくんとこうやってくっつきたい」

「…………」


 意外と大胆な人、それから五分間先生とくっついていた。


 ……


「ううっ———!! あまーい! あかねくんも食べて! 食べて!」


 水着を買った二人はすぐ甘いものを食べに来た。

 てか、それだけでいいのかな。


「はい」

「あーん!」

「恥ずかしいです!」

「あーん!」

「…………あ、あーん」

「よし!」


 甘いものを食べる時の顔、俺はけっこう好きかも。

 今日、初めて女性とデートをした。

 これは今まで全然なかったいい思い出なのに、頭の中には先生の水着姿でいっぱいだった。変態じゃあるまいし。でもさ、俺も先生の水着姿を忘れたいけど、それが上手くできないんだよぉ……。


 誰か、教えてくれ!


「はあ……、あの店のケーキ美味しかったぁ〜」

「で、先生はケーキを食べてもいいんですか?」

「えへっ、今から家に帰ってあかねくんと夕飯食べるからいいの! 今日はすごく楽しかったし、またあかねくんとどっかに行きたい! デート! 今日みたいなデートがしたい! あかねくんはどー? また、私と一緒に行ってくれる?」

「は、はい……。先生、時間空いたら……その……ついていきます」

「うん! そうしよう!」

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