最初で最後の花束を -終幕-

「…死んでない?」


「はぁ…はぁ…はぁ…なんで当たってないの!!」


私は続けて何発も打ち込んだ…弾切れになるまでひたすらにうち続けたが当たらなかった…


「どうして…どうして当たらないの!!」


「亜理沙…私のこと本当は殺したくなんてないんでしょ!!其処の男についていきたいのは本当なのかも知れないけど、私のことを殺してまで行きたいとは思ってないんでしょ!!」


「そんなことない!!私は、あの人についていきたいの!!」


「さっきから言っているけど、どうしてついていきたいの!!その人は殺人鬼なんだよ!!人を殺して喜んでいるような人と一緒にいたって何も良いことはないよ!!だって、貴方が日本中から批判されてしまうわ!!」


「別に批判されたって私には関係ない…だって自分の決めた道を他人に指摘されたからと言って捻じ曲げる必要はないし…逆に聞くけど、どうして私をそこまで引き止めるの?」


「だから…」


「貴方が言いたいことは殺人鬼と一緒に居たら、必ず大変なことになるってことでしょ?それでも私はこの人と一緒にいたい…その思いがあるの」


「亜理沙…どうして」


「どうしてなんだろうね…あの日、彼と会ってからずっと疑問に残ってたことがあるの…」


「…」


「ずっと胸の高鳴りが止まんないってこと…どうしてかわからないんだけど、彼と一緒にいる時は本当の意味で落ち着ける…お姉ちゃんと一緒にいる時も落ち着けるけど、なにか違うの…」


「…亜理沙ちゃん…それは恋っていうんだよ」


「やっぱりそうだったんだ…」


私はそこまで言ったところで、あることに気づいてしまった…それはパトカーのサイレン音が聞こえたのだ…


「はぁ…亜理沙しょうがない子だな…とりあえず此処に来られるとだるいからさっさとここから逃げるぞ?」


「分かりました!!どうするんですか?」


「そうだな…とりあえず突入まで時間をかけさせたいから、玄関の前を封鎖しておこう…それと、その女も縛っておけば大丈夫だろう…本当は殺さなきゃいけなかったけど今回は負けてやる…とりあえず移動しよう…君の家に案内してくれ」


「はい…」


それから警察が突入するのにかかった時間は、予定時刻よりも2時間も遅れたそう…要因としては、窓がカーテンで封鎖されていたことに加え、俺が既に居ないのか分からなかったこと…そもそも玄関が封鎖されていたことなどが上げられる…


「さて…警察が来て銃を使った戦闘にでもなったら、勝ち目がないからな…さっさと次に行くぞ」


「…(コク)」


「良い返事だ…さて…あそこの家で合ってるのか?」


「はい…」


「そうか…じゃあ入って上手いことやるんだぞ?」


「分かりました…頑張ります」


私は自分の家の鍵を取り出し、玄関の扉を開ける…中からお姉ちゃんが出てきて私を迎えてくれる…


「おかえり…亜理沙…表情が硬いわよ?何かあったの?」


「…」


「まさか学校でいじめられたの?私が学校に言ってあげるから安心しなさい?」


「ごめんね?」


「え?」


銃声が家の中に響く…私が手に持っている拳銃から放たれた弾は、お姉ちゃんの腕に命中した…


「痛っ…」


「はぁ…はぁ…」


「そんな物を…何処で手に入れたのよ…ウッ…」


「お姉ちゃん…ごめんなさい…私もう行かなくちゃ…」


「何処に行くの…」


「…」


私は腕を抑えて、今にも倒れそうなお姉ちゃんのことを申し訳なく思いながらも、彼の元へと向かう…彼は家の壁に体を預けて私を待っていた…


「どうだった?初めての殺しは…」


「…まだ慣れません…なんか相手のことを申し訳なく思ってしまうというか…」


「最初はそういうもんだ…俺だって最初の方は罪悪感ってものがあったんだ…一人二人と殺していくうちにそんなの感じなくなったけどな…」


「そうなんですか…」


「そうだよ…それじゃあ移動するか…この場に留まっていたら警察に捕まっちまう…」


そう言って数十分とかけて、移動した先は山の中だった…


「どうして山の中なんですか?」


「山の中ってものはな…とにかく隠れやすいんだよ…俺の経験則上、山には多少なりとも動物がいる…本気で捕まりたくないなら、動物を殺して、その皮を使って自分の匂いを消すことができる…そんなところかな?」


「そうなんですね…でも、やっぱりきれいにしてからじゃないと、病気とかになりそうですね…」


「もちろんそのまま使うってわけじゃない…臭いが少し落ちてしまうけど、洗ってからじゃないと不味いだろ…何かしらの感染症になりそうだ…」


「そうなんですね…今までずっと疑問に思ってたことあるんですけど…貴方の名前ってなんですか?」


「俺の名前?」


「はい…ずっと貴方とか彼とかで言ってきたんですけど…名前がないと不便というか…」


「俺の名前ね…今日中には教えてやるよ…」


山の中を歩き続け、辿り着いた場所は水が流れ、川のようになっている場所だった…川のようになっていると言っても、滝のように数か所なっているため、絶景と言っても過言ではないかもしれない…


「此処すごいですね…まるで滝が数か所連続でできているかのような…」


「だろ?俺が前々から目をつけてた場所なんだよな…こうやって隠れることとかに慣れば絶対使おうって思ってたくらいだし…」


「飲水に関しても、ここの水をどうにかして煮沸してしまえばいいですもんね…」


「そういう事だ…数日此処に居るだろうけど、我慢してくれよ?」


「大丈夫です…」


私と彼は、此処で数日過ごすことを決めた…私は木の枝を集めて、持っていた容器に川の水を入れた…火を起こして煮沸すれば飲水ができるというところで彼がこっちに来てこういった…


「もしかすると、警察が来てるかも知れない…隠れておけ」


「貴方は?私が隠れるとして、貴方はどうするの?」


「俺は大丈夫だ…」


私は彼のことが無性に心配になった…そもそも来ているとしてどれくらい居るんだろう…


私がそんな事を考えているといきなり銃声がした…彼の拳銃は結構特殊らしく、銃声が日本では聞かないようなものだった…日本の拳銃よりも音が小さいというか…なんと言えばいいかわからないけど、素の状態でも日本の拳銃よりかは消音に近い様子だった…


つまり今の銃声は彼の拳銃からの物ではない…警察の拳銃だ…


私は離れて様子をうかがっていたものの、彼の元へと走った…彼は今まで以上に余裕がなさそうな顔をしてこっちを見た…


「何でこっちに来た!!隠れておけと言っただろ!!」


「私だって戦えます!!隠れているだけは嫌です!!」


「…そうか」


彼は拳銃を正面に構えて、数発撃った…警察と思わしき格好をした数人がその場に倒れた…


「あんた…殺しだけじゃなく、誘拐もしてたのかい!!」


「何を言ってるんだ?森泉のババア…こいつは勝手についてきているだけだ…鬱陶しいとは思ってるが別に誘拐をしているわけではない」


「どうさね…そこのお嬢ちゃんはなんでそんな殺人鬼に着いていってるんだい?普通に考えれば、殺人鬼だぞ?人を数人殺したわけでもなく数百人と殺してきた…そんなやつだぞ?」


「私の勝手じゃないですか!!私の行動に口を出さないでください!!」


「はぁ…まぁしょうがないさね…あんた達!!気をつけながらやりなさい!!本部からの発砲許可は出ているから、撃っていいさね!!後始末は私がやっておくから、あいつの中に気をつけながらやるさね!!」


そう言って、『森泉』と呼ばれている高齢の女性は発砲の許可を出した…


「良いか?亜理沙…俺が指示したらその通りに従え…できるな?」


「分かりました…どうすればいいですか?」


「人数比では圧倒的にあちらが有利だ…つまり上手いこと何処かで一気に削らないとだめだ…つまり、お前はあっちの方に向かって乱射してくれれば構わない…その引き金を必死に引けば良いんだ…できるな?」


「はい…大丈夫です」


「よし…俺はあのババアを殺さないといけない…あいつの操作能力は本当に厄介だからな…」


そして数秒後、彼は私に合図を出した…


「今だ!!撃て!!」


私はその合図のとおりに、拳銃の引き金を引いた…私の拳銃から放たれた銃弾は数人の腹や、腕、足に命中した…


彼の放った銃弾は、数人の頭や腹に命中した…しかし全弾撃ってしまったのか、弾切れになってしまった…


「ちっ…リロードしないといけないな…」


「そんな隙を私が許すと思うかね?」


「お前の射撃能力だったら、まず無理だろうな…どうするか…」


「…こんな成人していない女の子を犯罪に加担させて…何を考えているんだか…おかげさまで、隊員がほとんどいなくなっちまったじゃないか…」


「お互い様だろ?」


「はっ…さて、お前さんは私のことを甘く見すぎた…死んでもらうさね!!」


そう言って、拳銃を構えて発砲してきた…さっきまではホルスターにあったはずなのに…


その銃口は彼ではなく、私に向けられていた…


此処で死ぬのか…そんな風に思っていると突如として浮遊感が身を包み、滝のようになっている数カ所のうちの手前の方に落ちた…滝のような水が顔を打ち付けるが、気にせずに直ぐに川から陸に上がる…陸に上がった私の目に写ったのは、彼の服の胸部分が血で赤く染まり今にも倒れそうになっている光景だった…


私は必死に走って、倒れそうになる彼を受け止める…


「どうして!!…どうして、私のことを助けてくれたんですか!!」


「…俺が亜理沙…君のことを助けたいと思ったからだ…」


「私があそこで撃たれても、気にせずに銃を撃てば、貴方はあの人を殺れたでしょう!!なのに!!どうして私をかばったんですか!!」


「…俺には妹が居たんだ…ちょうど生きていたらお前くらいの歳になってるかな」


「…」


「妹はな、俺のことをいつも助けてくれたんだ…兄貴なのに不甲斐なかったよ…でもなある時、事件が起きたんだ…」


「…」


「俺の妹は何者かに誘拐されて殺されたんだ…その事件は今も解決してない…」


「そうなんですね…」


「だからなのかな…お前のことを妹に重ねているところがあったんだ…」


「…」


「妹を今度こそ助けたいって思ったから、亜理沙のことを助けたのかも知れないな…」


「そうだったんですか…だから私のことを…」


「君に酷なことを迫って悪かった…俺は後少しで死ぬだろうから、君は真っ当な道を生きろ…」


その瞬間、私は彼の拳銃を手にとって自分の胸に銃口を当てた…そして、


山の中に銃声が鳴り響いた…


「はぁ…はぁ…」


「何をやってるんだ…」


「私は貴方に言えなかったことがあります…私、初めて会ったあの時からずっと!!!!」


「そうなんだ…俺の事を好きになってくれてありがとうね…俺の名前は、烽火廉…廉とでも呼んでくれ」


私は、彼の胸に自分の頭を預けて、瞼を閉じた…彼の体は温かく、私の事を包んでくれた…


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殺人鬼に恋した女子高生  聖羅  @kce65895

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