第11話 帰還

ここは、黄泉の国。先の戦いで神宮司の父親である龍樹が、黄泉の谷に落ちてたどり着いた場所である。

黄泉の国の入り口では、閻魔大王が門番を担い死者の行き先を裁決している。

今、黄泉の国では死者の魂があふれかえっており、閻魔大王もてんてこ舞いで仕事をしていた。

「まったく、人間はおろかだ。医療や科学が発達して寿命が延びたとかいう割に、紛争や感染症、貧困、様々な人間の身勝手で、死者の魂は増えるばかり。人間の総数が増えた分、昔よりもわしの仕事が増えておる。

このままでは、黄泉の国もパンクしてしまうぞ。なぁ、龍樹。」

龍樹は、閻魔大王に乞われてしばらくの間という約束で、閻魔の手伝いをしていた。

「閻魔もストレスが、絶えないな。それにしても、最近また死者が増えたと思わないか?」

「また、どこぞで紛争が始まっておるのであろうな。これ以上わしの仕事を増やさんでほしいよ。」

閻魔大王は毎日のように同じような愚痴を龍樹にこぼしていた。


ある日、龍樹のもとに旧友が訪ねて来た。

テーブルを囲んで、二人は酒を酌み交わし、旧交を温めにきた、わけではなさそうだ。

「久しぶりだな。龍樹。」

妖鬼神社の祭神である、大狗神である。

「大神。よく来たな。どうした?」

大狗神は呆れた声で言った。

「どうしたもこうしたもないぞ。お前がなかなか帰ってこないから、迎えに来たんじゃないか。」

龍樹は頭を掻きながら、

「あ、いや。閻魔がな、ここの仕事が忙しすぎるから、少し手伝って行けとゆうもんだから、まぁ、一宿一飯の恩義ってやつでさ。」

「桜子さんも心配してたぞ。だいたい、上の世界とこことじゃ、時間の経過自体が違うんだ。お前は一か月足らずだと思っているだろうが、上の世界じゃすでに二七年経っているんだぞ。そろそろ帰ってきてくれないと、桜子さんにもせっつかれて、俺も困ってるんだよ。

それに、また魔塊鬼が封印を解かれて悪鬼たちを集めだしている。早く帰って来い。」

大狗神が、呆れた顔で龍樹に言った。

「なに?魔塊鬼が?それで、最近鬼たちの魂も増えてきたわけか。それじゃ、帰らないとだめだな。」

「そうだ、早く帰って来い。」

そう言い残して大狗神は帰っていった。


大狗神が帰った後、龍樹は閻魔大王の執務室で閻魔大王と会談している。

閻魔大王の執務室は豪華で、調度品も何もかも規格外に大きい。

いつも、閻魔大王はこの執務室で、死者たちの生前の行いについて評価をし、この後に行くべき死後の道を決めている。

「閻魔よ、上の世界が大変なことになっているようだ。俺はそろそろ帰らせてもらうとするよ。」

閻魔は重いため息をついて、

「そうか、帰ってしまうか。そうだな、お前は生者だから本来ここにいるものではないし。でも、お前がいないとなると、また俺の休む時間が無くなるな。」

「そんなこと言うなよ。まぁ、谷から落ちてケガをした俺を手当てして、飯まで食わしてくれたんだ。感謝してる。だから、少し仕事を手伝ったが、また、魔塊鬼が暴れ始めたらしいんだ。」

「そうか、魔塊鬼がな。

龍樹、おまえ帰ってくる気はあるのか?」

閻魔大王は龍樹を手放すのが相当惜しいようだ。

「まぁ、いずれな。命が尽きたときに。だが、まだやることがあるらしい。家族も待ってるしな。」

「お主をわしの後継者にしたかったんじゃがな。わしの可愛い娘たちでもお前はなびかなかったしな。」

閻魔は口惜しそうに、龍樹に言った。

「俺には、家族がいるんだよ。それに、これ以上あんたの仕事が増えると困るだろう?」

「ここも手が足りてないからな。これ以上死者が増えるとわしが過労死してしまう。」

泣きそうな声で閻魔が言う。

「なるだけ死者を増やさないように努力することにしよう。じゃぁな。」

龍樹はニヤリと笑って、立ち上がり大きな扉から出て行った。


「少し長居をしてしまったらしい。黄泉の国の1日はこっちの1年だからな。桜子、怒ってないといいな。あいつ、怒ると鬼よりも怖いんだよな。」

龍樹は黄泉の谷に立ち独り言ちた。

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