第4話 殺生石
ショウと神宮司は妖鬼神社の裏山の奥へ分け入っていく。
「俺、こんな奥まで入ったことなかったよ。」
神宮司が辺りを見回しながら、ショウに向かっていった。
「ここは、あの戦いの際、かなりの邪気に覆われてしまったため、お前をなるべく遠ざけるようにお前のお袋さんから言われてたんだ。親父さんはこの奥にある渓に落ちたんだが、そこは黄泉の谷で黄泉の国に繋がっているといわれてる。それもあって、お前を遠ざけていたんだろうな。」
「そうか。黄泉の国。それは死者の国のことだよね。父さんは死んでるんだ。」
「いや、生身の人間なら黄泉の国に落ちればそれは死だが、龍さんは鬼だから、黄泉の国に落ちても戻ってこられるはずなんだ。でも…」
「戻ってこなかったんだね…」
神宮司がショウの言葉を引き継いだ。
「俺は、父さんのことはほとんど知らない。母さんも俺に詳しい話はしないから。ただ、すごく勇敢で強い人だったって聞いてる。ショウは父さんのことよく知ってるの?」
「お前の親父さんは、この奥吉野の鬼の総大将だったんだ。吉野は日本中の鬼たちが集まってくるところなのは知っているだろう?集まってきた鬼たちを束ねて、纏めていたのがお前の親父さんだ。自分の力に任せて悪いことを繰り返してきたような奴もいる。親父さんは強くて正義感も強くて、誰もが一目置くような鬼だった。お前の母さんと結婚するってなった時は本当にびっくりしたが、みんな祝福したんだ。」
「そうか。母さんはあまり父さんのことを話さないし、もしかしたら幸せじゃなかったんじゃないかと思っていたんだけど。」
「本当に仲のいい夫婦だったよ。お前が生まれて、親父さん・・・龍さんもお前をかわいがってた。本当に幸せそうだったよ。お前に話さないのは、その幸せな日々を思い出すのがつらいんじゃないのかな?あと、もしかしたら、お前を守りたかったのかもしれないな。お前なら、龍さんの行方を捜すとか言い出しそうだからな。黄泉の谷はこの山の頂上にあるんだ。俺とレンは先の戦いの後、何度もこの辺を捜していたんだが、龍さんは帰ってきていなかった。」
「そっか。話してくれてありがとう。父さんのこと、あまり知らなかったから、今日聞けて良かった。」
「少なくとも、ジンの親父さんはみんなのヒーローだよ。」
2人で話をしながら山を登っていくと、木々が鬱蒼とした中に大きな岩があり、真っ二つに割れていた。
「これが、殺生石?」
神宮司は恐る恐る近づいていく。
「そうだ。気をつけろ、まだ瘴気が残っているかもしれない。」
ショウが神宮司を抑えて殺生石を調べた。
「やっぱり。封印が解かれている。」
2人でその岩を調べていると、ざわざわと木々がざわめき、辺りが薄暗い闇に包まれた。
その闇の中から「・・・くくくっ」
と不気味な笑い声が聞こえた。あの日の老婆だ。
老婆は両目は真っ赤で不気味な笑みを浮かべている。
「魔塊鬼様の贈り物は気に入ったかい?」
老婆がニヤニヤしながら言った。
「やはり、あの蟲毒は魔塊鬼の仕業か?お前は誰だ。何のためにこんなことをしている?」
と、ショウが言うと、老婆の体から紫色の瘴気が立ち上り、鎌のような形になってショウと神宮司のほうに向かってきた。
ショウが、神宮司を背に庇い、太刀を抜いてその鎌のシルエットを断ち切った。
すると、突風と共に何か岩のようなものが大量に飛んできた。
「ジン、気をつけろ、この石に当たると大やけどする。これは溶岩だ。」
その溶岩をよけながら、ショウは老婆に切りかかった。
老婆の体を真っ二つにした。と思われたが、
「なに?」
ショウの太刀は空を切ったような感触だった。老婆はニヤリと笑い、
「ふっはははははははっ」
老婆が高らかに笑った。
「幻なのか?」
ショウと神宮司は身構えた。
「魔塊鬼様は蘇った。わしが蘇らせたんじゃ。お前たちはもう終わりだ。息子の復讐じゃ。人間もこの世界も終わりだ。百鬼夜行再来じゃー!!うわっはっはっは」
そういうと、老婆も闇も煙のように消えていなくなった。
「息子の復讐・・・?あのばあさんはいったい誰なんだ?」
神宮司が首をかしげる。
「ジン、あのばあさん、魔塊鬼に操られているんじゃない。蟲毒の瘴気が魔塊鬼の瘴気だったとしたら、魔塊鬼とは違う瘴気のにおいがした。しかも、魔塊鬼より強い瘴気だ。
敵は、魔塊鬼だけじゃないのかもしれない。」
「それは、まずい事態だよね。」
神宮司とショウは顔を見合わせ、顔を曇らせた。
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