裏吉野奇譚

KPenguin5 (筆吟🐧)

第1話 序

まだ、妖と人が隣り合わせで暮らしていたころ、夜がしっかりと暗闇になって、妖たちが自由に行動することができた。

だが、時代が進み文明が発達すると、夜が暗闇ではなくなり、妖たちが自由に行動することができなくなった。妖たちは住む場所を追いやられ、限られた場所でひっそりと暮らすか、人にまぎれて人として生きるものもいた。


吉野は、その昔、役小角が開いた修験の山である。役小角が修行の末、金剛蔵王権現が現れ、その金剛蔵王権現を祀ったのが金峯山寺である

吉野の土地は、いにしえより鬼や妖が集まる土地だった。文明が発達した現代でも人間社会から、排除され迫害され行き場を失った鬼や妖たちが集まってきていた。

だが、吉野の地にも人間が多く住むため、吉野を守る吉野守たちは、裏吉野を作ることにした。


金峯山寺の修験者である吉野守が霊力を駆使し、異次元の世界を開き、そこに吉野とそっくりの裏吉野を作り上げた。

裏吉野には、人間社会では暮らしにくい妖や鬼たちが、行き場を求めて集まって来るようになった。

妖や鬼の中には、悪事を働く迷惑な者も少なからずいる。

妖ばかりを集めて暮らすと、その集落は混沌とした集落になるのは目に見えていた。

だから、裏吉野に銀峯山寺と妖鬼神社を置き、裏吉野と人間社会のトラブルを防ぐように見張る役目を担うものを配置した。


妖鬼神社には大狗神が、銀峯山寺には烏天狗が、その任を担った。

それでも集まってきた鬼たちは、自身の力を持て余し、傍若無人なふるまいをする者もいた。その中に龍樹という鬼がいた。

龍樹はその持て余す力を、大狗神との対決で試そうとした。

その挑戦を受けた大狗神は、龍樹に条件を出した。

「もし、我が勝ったならば、お前はここに住まう鬼を束ね、この混沌とした集落を纏め、鬼の総大将として我らと共にこの裏吉野を守れ。

もし、お前が勝てば、妖鬼神社はお前に譲ろう。」

この対決で、山が一つ無くなったとのちに語り継がれるほどの壮絶な戦いだったが、結局勝ったのは、大狗神だった。


龍樹はその後改心し、鬼たちを束ね、悪事を重ねる者たちを諫め、混沌としていた集落は落ち着いた。


時が過ぎ、人々は妖や鬼はおとぎ話に出てくる想像の生き物だと、そう信じるほどに、人と妖たちが関わることがなくなってきた時代、ある時、裏吉野に魔塊鬼という鬼がやってきた。

魔塊鬼は、人が妖や鬼を恐れなくなり、妖たちの居場所が奪われたのは、裏吉野があるからだと、裏吉野を攻撃した。

魔塊鬼に賛同する妖たちの攻撃に、裏吉野の妖たちは立ち向かい、大きな痛手を負いながらも、魔塊鬼を封じ込めることに成功した。

魔塊鬼は裏吉野の妖鬼神社の裏山にある殺生石に、封じ込められている。


そしてもう一つ。

吉野守たちは、裏吉野を作る際にある予言を残した。

裏吉野にもしも闇が襲ってきたとき、二人の蔵王権現と6つの言霊を持つ光が現れ、それぞれの力で闇を打ち破り、闇よりスサノオが現れる。そしてスサノオが闇の根源を倒すという。

その予言は絵物語として残され、その巻物は、銀峯山寺に奉納された。


時は過ぎ、吉野にも裏吉野にも平穏で穏やかな春が、幾度となく訪れ、予言のことも過去の戦も、夢物語だったのではないかと思うほど、妖たちも人々も平和を謳歌していた。


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