第6話
「何だ?」
「いえ。別に。」
つっけんどんに返すリイナをロナルドは面白くなさそうに見つめた後、「お前にやる」と小さな小箱をポイッと投げた。上質な小箱の中身は開けなくても検討がつく。だが、まさかと思いリイナは恐る恐る箱を開けた。
「何で……。」
そこには輝かしい指輪が入っていた。宝石には全く縁の無いリイナですら高級だと分かる物だ。渡しっぱなしで去ろうとするロナルドにリイナは指輪の小箱を投げつけた。もう少しで床に落ちそうになったそれをロナルドは慌ててキャッチした。
「おい。」
「おい、ではありませんよ!昨夜から意味が分かりません!急に怒ったり、急に指輪をよこしたりして!ロナルド様の考えていること、一ミリも分かりませんよ!いい加減に……」
「お前が……っ、お前が他の男と踊ろうとするからだろう。」
「はい?」
絞り出されたロナルドの言葉にリイナはキョトンと首を傾げた。
「お前こそ何なんだ!やっと、やっとお前と社交の場に出られたのに。その為にずっとドレスの準備もしていたのに、先に他の男と踊ろうとするなんて。最初は俺と踊るべきだろう!いや、最初だけじゃない。今後俺以外の男と踊るんじゃない!」
「はぁ?何でロナルド様にそんな制限されないといけないんですか!」
ロナルドの言葉はリイナを嬉しくさせたのに、リイナはつい可愛くない言葉をぶつけた。どうしてもロナルドの気持ちを聞きたかった。
「……っ、お前なら分かるだろう。学生時代も離れなかったのはお前だけだったのだから。」
「それでも!聞きたいんです、ロナルド様の気持ちを。私は……ロナルド様のことが大好きです。ずっとずっと大好きでした。」
「……っ!お前は……。」
はぁ、と大きな溜息をつくとロナルドはリイナを抱き寄せた。耳元で小さく「愛している。」と囁かれ、リイナは花が綻ぶように笑った。
ロナルドはリイナを抱き寄せたまま、リイナのベッドに腰掛けた。リイナはロナルドの膝に乗せられ、顔を熱くした。
「ちょ、ちょっと!近いです!」
「ふん。照れているのか。」
満足そうに笑うロナルドを見てリイナは悔しくなり「……別に照れてません。」と口を尖らせた。
「……昨日の聖女様には何も無いんですか?」
「は?」
ロナルドの胸に顔を埋めたまま小さく呟いたリイナを、ロナルドは怪訝そうに見つめた。リイナはぽつりぽつりとロナルドが聖女アンに対して熱の籠った視線を送っていたことを伝えた。ロナルドは大きく溜息をついた後、肩を落とした。
「……あのじゃじゃ馬娘には最後まで迷惑かけられた。」
「じゃ、じゃじゃ馬娘?」
リイナは顔を上げ、目をぱちくりさせた。英雄として崇められている聖女を、じゃじゃ馬娘と呼ぶのは国中探してもロナルドだけだろう。
「……お前と籍を入れても誰にも文句を言わせたくなくて魔術協会の会長になった。十年も掛ったが。」
「へ?」
自分の為に努力したというのか、とリイナは胸を高鳴らせた。十年も、とロナルドは言うが十年で会長職に就くのはこれまで考えられないことだった。ロナルドはそれだけ有能で努力を重ねていたのだ。
「十年掛かってやっとお前と籍を入れようとした時にあのじゃじゃ馬娘が聖女だと分かり、問題ばかり起こって籍を入れるどころじゃなかった。」
勿論必要な業務だが……とロナルドは苦々しく呟いた。
「昨日の祝賀会を終えて、漸く問題は片が付いた。俺は漸く、漸くお前と一緒になれると思って、だな。」
歯切れ悪く話を終えたロナルドの顔をリイナは暫く見ることが出来なかった。まさか自分のことを想ってロナルドがあんな瞳をしていたとは夢にも思わなかった。
「ふん。それなのにお前は他の男についていこうとするし。」
ロナルドは恥ずかしさを隠すようにいつもの憎まれ口を叩いた。
「も、もう!ロナルド様がそんな風に考えているなんて知らなかったんですから!」
「だけどお前は俺のことが大好きなんだろう?なぜ他の男と踊ろうとした?」
「だ、大好きって……。」
「俺だって話したんだ。お前も話す義務がある。」
「うぅ……。」
リイナはロナルドの胸にまた顔を埋めると「……ロナルド様が踊ってくれるなんて思わなかったから。」と聞き取れないほどの小さな声で伝えた。ロナルドはにやりと頷くと「次からは必ず俺だけと踊るように。」と約束させられた。
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