逆光

@mizunotasuku

第1話

『人を殺しました。』


月人は心の中で呟いた。

まだ、夏の午前とは思えない気温の中、月人はT市K区にある交番の前にいた。


『僕は、人を殺してしまったのです。』


さっきと同意で、私と言う主語をつけ、心の中で呟いたのは、自分の中の小さく、強い弱さを否定したかったからなのかもしれない。


月人は、自分にだけわかる溜息を溢し、交番を一瞥した後、その場を離れた。


2020.07.02

世の中は季節が巡るたび、【異常気象だ。】【毎年暑くなってる気がする】など、なんの根拠もなく、ただ季節の厳しさを嘆く人で溢れ、昼のワイドショーなどで某大学教授が、その気候変化についてのエビデンスを話せども、ながら作業がてら右から左にその雄弁は流されていった。


これだけ雄弁に物事の辻褄を話しても、聞いてくれているかなんて分からないし、聞いていてくれたとしても、理解はその先にある。


そして、僕はそんな理解から遠く離れた場所で、ただひたすら待った。あの殺人が時効になる時を。

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