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 無人の廊下には殺人的な暑さの日差しが降り注いでいる。日陰となった窓辺から俺は桟に寄りかかり、目的の時間まで外の景色を眺めていようと考えていた。


 湿気を多分に含んだ、纏わりつくような熱気を肌で感じつつ、眼下に広がるグラウンドを見下ろす。そこには溌溂とした様子の運動部が土埃を巻き上げて内周を走っている。


 この炎天の下、必死になって汗を流す彼らの姿に俺は一抹の嫉妬を覚えたような気がした。


 一ヶ月ぶりに訪れた学校に変化はなく、まるでこの空間だけ時間が止まっている様だった。   


 だけど確実に時間は進んでいて、この学校に通っている俺以外の生徒の人生は確かに前進しているのだと周囲の環境から、そう思わされた。


 俺はやにわに、付近に設置してある水道に向かう。そして蛇口を捻り、流れてくる水を両手で受け止めた。


 あの日から気が付くと、ネガティブな思考に陥ってしまう自分がいる。

 

 俺は脳裏に走る濃厚な負の感触を拭い去ろうとして、一向に冷たくならない温いままの水道の水で顔を勢いよく洗う。


 真下の地面にポタポタと水滴が顎から滴り落ちる。俺は顔を拭かずにその場で立ち尽くしていた。


 眉間から鼻へ、そして頬。

 伝っていく水の流れがやけにむず痒かった。  


 「どうして、どうして俺は……」


 零れ落ちた水滴と共に、心の声も漏れ出す。

 こんな感覚はもう、うんざりだった。

 

 俺は強く拳を握りしめ、携帯で現在時刻を確認する。画面は【12:30】を示していた。


 補習の開始予定時刻は【12:45】だった。 


 俺は現在進行系で心を蝕む、窮迫感を乱暴に振り切るようにして約束の教室へと走り出した。


 今の時期には廊下を疾走する人間を注意する者などいない。それだけが唯一の幸運だった。

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