ルスコの聖石

第27話 神話

 ―――数日後 イレイサー事務所


「ねえ、ハルキさん。ハルキさんって!」


「なんだよ、うるせえなあ」


「どうです? ハルキさんはどの神様が好きなんっすか?」


「ん? どうです? どの神様?」


「この本、最近発売されてメチャクチャ売れてんすけどね。やっぱアザトス様がかっこいいっすよねえ、万物の神って。読んであげますね、えーっとお」


 ――――――


 この世界は七神によって作られ七神によって守られている。


 魔族が現れこの世界を破壊しようとした時も


 魔物が世界を覆いつくそうとした時も


 この世界は七神によって守られている。


 昔、愚かなる王が神と同化し、自らが神となろうとした。


 神はそれを許さず、大いにお怒りになり、嵐を起こし、大地を揺らした。


 神達はこの世界をやり直そうとされたのだ。


 ――――――


「ほらあ、かっこいいでしょ?」


「なに言ってんだ、そんなもん全部作り話だよ」


「え?」


「作り話、嘘、うーそ! 誰かが考えて作ったお話! そこら辺の魔導テレビでやってるドラマとかと同じだよ」


「なに言ってんすかハルキさん。そんなこと言ったら魔法自体を否定することになるっすよ、しかもドラマとおんなじってそりゃあないっすよ」


「なんでだよ、誰も見たことないんだよ、その神々ってやつをさ。だったらどうにだって作れるじゃねえか。ニッタ、それこそカタデリー信仰だってお前が今持ってる本、オルドゥアズ信仰の裏返しだぞ、気をつけろ」


「え~、そんなこと言ったらカタデリーの奴らもオレらも同じになっちゃうじゃないっすか」


「そうだよ」


「そうだよ、ってハルキさん。じゃあなんでカタデリーの奴らをそんなに……」


「ニッタ」


「はい。なんすか? はい」


「喉が乾いた。ジュース買ってきて。十秒で」


「えええええ?」


「はい、十! 九! はーち!」


 ニッタは走り出し事務所を出て行く。


 その様子を見て真面目な顔でツノダが言う。


「ハルキ。そろそろニッタに話すべきなんじゃないか?」


「まだ早いっすよ。んで? ツノダさん、こないだの付喪神の話はどうなったんすか?」


「あ! そうだよ、お前、あれ。あの後大変だったんだぞ。東方の道具ってだけじゃなく、なんとかって犯罪組織も絡んでてな、帝国国防省刑事捜査機関からも呼び出しがあって、ってお前に言っても仕方ないか。ハルキ、お前俺達の仕事ちゃんと理解してる? 何度も言うけど俺達の仕事はなぁ」


「はいはい、わかってますよ。オレたちの仕事は『遺物』に取り憑いた『ある』モノを『ない』モノに。綺麗に消す、イレイスするのが仕事でしょ、プロデューサー」


「お前わかってんなら遺物ごと消すのやめろよ、後始末がほんと大変なんだぞ、なんでうちがこんなに人気があるのかわからんよ」


「んで? 名プロデューサー、次の依頼は?」


「ああ、次はさっきニッタが読んでた本を書いた作家先生のとこだ。場所は、えーっと」


 依頼票を見ながらツノダが言う。


「依頼は作家のミヤモトミヤの所蔵する遺物、『聖石』のイレイスだ。準備ができ次第、ルスコに向かってくれ」


「聖石だとっ?!」


「ああ、だからお前に頼む。いいか、くれぐれも無茶はするなよ」


 そう言ってツノダは真剣な顔をする。

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