てきとうホラー短編
ヌャリル
幽霊団地
近所の団地は少しずつ老朽化し住人も去り、今年に入って完全な無人団地となった。
会社帰り誰も居ない団地の横を通り過ぎると怖い。
今住んでいるアパートの窓からはどうしたってその無人団地が見える。
夜ビールを飲みながら灯りひとつ無い団地群を見ていると背筋が寒くなる。
無音で真っ黒な巨大な箱の群れが目の前に並んでいるのを想像してみてくれ。
音一つ立てない巨大な黒い構造物に異様な感覚を覚えるはずだ。
そう、俺は「オバケが出そうで怖い」ではなく「中に誰も居ない建物」
そのものに恐怖していた。
俺は「空っぽの大きなもの」がとにかく怖いのだ。
いわゆる広所恐怖症(Agoraphobia)に近いかもしれない。
団地は取り壊す金も無いのか半年に渡りそのまま放置された。
その間に味わった俺の恐怖は言うまでもないだろう。
とはいえ俺自身にも引っ越す金が無いのだ。
そこで俺は考えた。俺は何かが中に住んでいれば安心する。
そう、誰かをここに住まわせてしまうのだ。
とはいえホームレスをここに呼び込んでしまえば俺以外の近隣住民と何かと問題が起きるだろう。
動物、野良猫はどうだろう。いや、この辺りの住民は野良猫にあまり優しくはない。
寝る場所があっても餌の不足で生きていけないだろう。
生きて…そうか、生きているものは問題を起こすのだ。
俺はしばらく骨董店や寺を巡った。
骨董店はなるべく胡散臭い所を、寺は人形供養をしている所だ。
帰宅後戦利品を検分する。どれもいかにもいわくありげ、いや実際に恐ろしい逸話があるものを含む呪われた品ばかり。
この世ならざるものをその身に宿したものばかりという事だ。
そう「この世ならざるもの」が新たな団地の住人。
こっそりと団地に入りそれらの呪物を置いて帰宅した。
その夜、団地を見ても俺に恐怖の感情は起きなかった。
次第にその団地は「幽霊団地」として有名心霊スポットの仲間入りを果たした。
休日になれば誰かしらが探索や肝試しにくるのが窓から見物できる。
今や廃団地は空の箱ではない。
ビールを飲みながら俺は満足のため息をついた。
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