第三章 黒い霧

第22話 ナッシング・トゥ・ドゥが故郷

一応「ある」と答え文系を希望とも伝えたが担任は俺の覇気の無さに舌打ちして「このままでは国公立への進学など思いも寄らないぞ」と宣ってくれたものだ。文系志望はもともと文学が好きだったので偽りのないところだったがしかし云われるまでもなく、進学自体が既に覚束ないだろうことは俺自身がよく判っていた。ではいったいどうするのか。もう一度勉学に励む気力はなし、かと云って他に励むものはなし…ないない尽くしだったが、だがこんな中でも俺には不思議と動揺がなかった。ただボーッとしてるというか、ボケーッとしているだけなのにそこに過不足を感じない。むしろこの状態にこそ変な落ち着きというかルーツのようなものを感じてしまう。その分けはしかし俺には分かっていた。俺が3才児の頃に母が死別して俺は姉と共に遠く離れた故郷の奄美大島へと帰された。親戚の付き添いがあったとは云え、幼い姉弟だけでのその時の流離いとその後の大島での暫しの生活による不安が、何とも云えない魂のコアのようなものとなって、その不安定さにこそむしろ変な郷愁を感じるからだった。つまりその後いくつ年を重ねてもパターンは違えど同じような強度の不安に陥る度に、俺は自らを〝怠りのベール〟で覆って、ナッシング・トゥ・ドゥの無為さの中に自らを置いて恥じず、いっさいを憚らなくなってさえしまうのだ。無為無策ぶりを自嘲し焦りはするのだが、同時にパラドックス的にそこに前者の性癖が並存してるような状態?…と云えば判ってもらえるだろうか。とにかく、やんぬるかな、我ながら難しい御仁ではあったのだ、この俺は…。

 

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