第5話 性格は陽気で積極的です

「えー、名前はむ、村田と云います。出身校は×××小学校で、ぼ、ぼくの性格は…」とぼくとつと語り出す。ところがここで奇跡が起こったのだ。あたかも自分の中に突然別の人格が入り込んだかのごとくに、口が勝手に以下のようなことを告げ始めたのだ。「えー、性格はいたって積極的な方で、人と話すのが大好きです。明るい性格だと思います。得意な科目は社会、音楽…」などと、信じられないようなことを歯切れよいアクセントまでつけて、力強く語りだす。自分で語っていながらその自分の口上を感心しながら聞いている俺がいた。こんなことは始めてのことで『おいおい、俺の中の誰かさんよ、勝手にそんなことを云わないでくれよ。俺は決してそんな人間じゃ…』と止めたいくらいだ。あとで実体がわかって笑われるのは俺だからだ。しかし俺の中の誰かは悠然と語り終って俺を席に着かせた。俺の顔は火照って赤くなっていただろう。「えーっ?あいつそんな陽気なやつだったっけ?」とささやく小学校の同級生たちがいたが蓋(けだ)しもっともなことではある。着席直後に俺はもうふだんの俺にもどっていて『ああ、これからいったいどうなることだろう?』と危惧するばかりであった…。ところが、である。ここからが奇跡だった。へー、あの子(もしくはあいつ)そんな子なんだ。それなら…とばかり、元同学校のやつらはともかく新たに同級となった連中からは一目二目も置かれて接せられることになったのである。あたかも未来の学級委員かクラスの人気者に接するかのように、口もとに笑みを浮かべては、俺の対応如何を探るように接して来る。小学校時代にはまったくと云っていいほどクラスメートから話しかけられることなどなかったのだ。それなのにこの変わりようである。

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