ソコニ

第1話

ある晩、男の耳に恐ろしい噂が囁かれた。それは、闇市で顔を購入することで成功を手に入れる契約だった。


男には疑念が沸き起こる。


「この恐ろしい噂…果たして真実なのだろうか?」


男は好奇心と欲望に導かれ、調査を始めた。さまざまな情報を収集し、顔の力が実際にあることを、成功者たちに尋ねることによって確かめた。


男は恍惚としていた。


「闇の中に足を踏み入れた。成功への扉を見つけるため、欲望に囚われた魂が震えている。だが、成功は必ず成し遂げられるのだ。」




男は禍々しい場所に辿り着いた。不気味な雰囲気が漂う闇市がそびえ立っていた。扉をくぐると、そこには仮面を被ったような表情の店主が立っていた。店主の瞳には邪悪な輝きが宿っているかのようだった。


低く嗄れた声だった。

「ようこそ、野心に燃える者よ。私は顔の売人だ。君が望む顔を手に入れれば、成功はすぐそこだ。」


男の心は高揚し、狂喜に満ちた。

「本当に…本当に可能なのか?私は成功を得るためならば、どんな代償でも払う覚悟がある!」


店主はにやりとした笑みを浮かべながら言った。

「それならば、このコレクションから自分自身の顔を選ぶがよい。顔の力が君を成功へと導いてくれるだろう。」


男はコレクションを見渡した。鮮血の匂いが漂い、不気味な仮面が並び、それぞれが成功者たちの魅力を具現化しているかのように見えた。


店主は冷酷な表情のまま答えた。

「君の選ぶべき顔は、心の底で願望と欲望が渦巻くものだ。よく考えて選びなさい。」


男は葛藤しながらも、心の底から望んでいた顔を選んだ。

男は決意に満ちていた。

「それをくれ。私はこの顔の力で成功をつかみ取るのだ!」


男は手に入れた顔を信じ、鏡に映し出される自分の姿を凝視した。すると、恐ろしい現象が始まった。


顔は自律的に動き出し、邪悪な微笑や慈しみの表情を浮かべ始めた。男は戸惑いながらも、その恐怖の光景に見入っていた。男の顔は勝手に変幻し、見たこともない多様な表情を繰り広げた。




ある日、男は欺くべき相手を見つけた。苦悩しながらも、男は冷酷な計画を巡らせた。その相手は、男にとっては手練手管にかけるには容易な餌食に過ぎなかった。


男は相手の信頼を勝ち取りながら、巧妙に罠を仕掛けていった。男は相手に対し真摯な態度を装い、自分自身を完璧な成功者として演じた。その魅力的な顔が相手を魅了し、心を操っていった。


相手は男に全幅の信頼を寄せ、男にとって必要な情報や資産を提供してくれた。しかし、その全ては男が罪深い成功のために利用するための手段に過ぎなかった。


男は内心で嫌悪感と罪の意識が交錯しながらも、冷酷な行動を取り続けた。男は相手を騙し、欺き、自己の野心のために利用し続けたのだ。


相手はまるで男が演じる成功者の影に取り込まれていった。男の魅力的な顔は相手を洗脳し、思考や意志を男の望む方向へと導いた。




「他人を欺き、罪深い行為を犯すことで本当に成功を手に入れなければならないのか?」

男は自問自答し、微かな葛藤が顔に浮かび上がる。しかし、それを遮るかのように聖者のような顔に変化する。


男は絶望の叫び声をあげる。

「なぜこの顔が私を操るのだ!?」


顔は冷酷な微笑を浮かべた。

「お前が成功を望んだのだろう。私の力でお前は完璧な成功者となるのだ。」




男の内なる苦悩や葛藤は日に日に増し、心を抉るように苦しみをもたらした。詐欺による成功は、男の心の底に潜む嫌悪感と罪の意識と引き換えにやってきたのだ。


男の心の奥底では、自己嫌悪と罪悪感が渦巻いていた。詐欺による成功は、男の内なる闇に苦痛や葛藤をもたらしていたのだ。


しかし、顔はその苦悩を無視し、男に自身の魅力を押し付け続けた。


顔は冷酷な表情のまま、男の主であるかのようにふるまった。

「お前は見事に成功者の姿を演じている。よくやっている。誉めてやろう。だが、もっと魅力を高めるためには、苦悩、内なる声を捨て去り、私の指示に従って行動し続けるのだ。」


次第に、男の思考は顔の支配下に置かれ、男は自身の考えや感情を抑圧し、顔が演じる成功者の従者として忠実になっていった。


内なる声が消え、男本来の思考は薄れていくのだった。男はただ顔の指示に従って行動する操り人形となっていった。


「きっと成功はできるだろう。だが…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ソコニ @mi33x

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る