第二十八話

 するとスマホを見ながら、となりにいた隆太りゅうたさけんだ。

「まずいよ、ななみちゃん! この雨、夜までるんだって!」


 ななみは、くちびるをかんだ

「まだ十二時。みんな、まだ食材しょくざいを集めている時間……。でも、ここは山の中。雨で土砂崩どしゃくずれや、川が増水ぞうすいしたらまずい……。しょうがないわ、安全第一あんぜんだいいちよ!」


 ななみは優希ゆうき健太けんたに食材を集めるのを止めて、ペンションに帰ってくるようにLINEを送った。


 三十分後。ななみは、優希と健太と話をしていた。

「お帰り、二人とも。皆、ケガとかしてない?」


 優希と健太は答えた。

「はい。女子のはんは全員、無事ぶじに帰ってきました」

「男子の班も同じです。全員、無事です」


 ななみは『ほつ』とした表情を一瞬いっしゅん見せたが、すぐに真剣しんけんな表情で聞いた。

「それで食材を集めるのは、どうだった?」


 まず、優希が答えた。女子の班が釣ったニジマスの量は、今日の夕食の分くらい、明日の朝食の分は足りないと。健太も答えた。男子の班も同じ。キクイモは今日の夕食の分はあるが、明日の朝食の分は無いと。


 ななみは少し考えた後、話し出した。そう、分かったわ。食べざかりの皆に、おかず無しの朝食はちょっとキツイけど、しょうがない。取りあえず、今日の夕食を食べよう。ニジマスはムニエルに。キクイモは味噌みそてちょうだい。明日の朝食のことは、私が後で皆に話すと。


 夕食の時、私はテーブルにならんだニジマスのムニエルを見ながら、宗一郎そういちろう翔真しょうま自慢じまんした。

「私、今日、ニジマスを二匹も釣ったんだ! すごいでしょう!」


 宗一郎と翔真は、答えた。

「はいはい、すごいね。俺は昨日、三匹釣ったけど」

春花はるかちゃん、すごい~」


 私は『いただきます』の挨拶あいさつを、心待こころまちにしていた。すると少しけわしい表情をした、ななみが挨拶をした。皆さん、ご苦労様くろうさまでした。皆さんのおかげで、今夜も食事ができます。でも残念ながら、明日の朝食のおかずはありません。食糧不足しょくりょうぶそくなので。でも明日の夕食はちゃんとおかずも食べられるはずなので、安心してください。それでは、いただきます!


 明日の朝食のおかずは無いと聞いて、皆は少しざわついたが、取りあえず目の前の夕食を食べた。


 夕食後、お風呂ふろに入って女子の寝室しんしつに入るっと長いかみをバスタオルでふいている、ななみさんがいた。私は、つい聞いてしまった。

「あの、ななみさん。明日の朝食のおかずは、無いんですか?……」


 すると笑顔を作って、ななみさんは答えた。

「そうなの、ごめんね春花さん。でも明日の夕食は、きっと美味おいしいおかずを食べさせてあげるから!」

「本当ですか?!」

「うん。それに明日は、すごいものを見せてあげる。だから今日は、もう寝ましょう」


「はい!」と私は、ゆかいてある布団ふとんに入った。そして私は、もう一つ聞いてみた。

「それにしても昨日は男子が部屋にきて、びっくりしました。今夜もくるんでしょうか?」

「ああ、そうだったね。びっくりさせちゃったね、ごめんごめん。でも、もうこないと思うよ」

「そうなんですか?」


 ななみは、リラックスした表情で答えた。夜に歩き回れるのは、体力がある一日目だけ。二日目、三日目はつかれてそれどころじゃないの。男子も今日は全員、もう寝てると思うわ。だから安心してね、と。


 私は、ななみさんに「おやすみなさい」と告げると、私も疲れていたのですぐにねむりに落ちた。

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