第六話

 するとすぐに翔真しょうまは、宗一郎そういちろうに聞いた。

「ねえ、宗一郎君。『メロスはゲキドした』のゲキドって、どう書くの?~」

「教科書に書いてあるから、それを見ろ」


 私もスマホを出して、教えてあげた。

「今じゃ、ネットでも調べられるわよ」


 すると翔真も喜んで、スマホを取り出した。

「うん、分かった。ありがとう~」


 だが少しすると、翔真は再び宗一郎に聞いた。

「ねえ、宗一郎君。『なぜメロスはゲキドしたのでしょう?』っていう問題があるんだけど、全然、わかんないよ~」


 すかさず宗一郎は、答えた。そういう時は、問題が書いてある文章の前後をよく読むんだ。そうすると答えが書いてある。この場合、『メロスはゲキドした』という文章の前後を読むんだ。更にこの場合『メロスはゲキドした』という文章は一番初めに出てくるから、この文章の後を読めばいい。すると答えが書いてある、と。


 私も、教えてあげた。

「そうそう。ちょっとした『コツ』を覚えれば、問題を解けるよ」


 翔真は再び、喜んだ。

「二人とも、ありがとう! 良く分かったよ~」


 そんな私たちを見て萌乃もえの先生は笑顔で、『うんうん』とうなづいていた。


   ●


 その週は私たち小学生が、昼食を作る当番だった。大海たいかいには小学四年、小学五年、小学六年、中学一年、中学二年、中学三年、高校一年、高校二年、高校三年の各グループがある。そして昼食は自分たちで作るのだが、それぞれ小学生は全員で六人、中学生は全員で八人、高校生は全員で四人で、一週間づつ担当たんとうしていた。それは、『自分たちで食べるものは、自分たちで作りましょう』という大海の方針ほうしんだった。先生たちの昼食は、先生たちが自分で用意していた。


 月曜日。私は、しぶった。

「えー、私、料理なんてしたことないよー」


 すると翔真は、笑顔で答えた。

「大丈夫だよ、簡単だよ~。料理ってザックリ言うと、材料を切って、熱を通して、味付あじつけをすればいいんだから~」


 私は、思わず聞いた。

「え? 何それ? ザックリしすぎじゃない?」


 すると宗一郎が、答えた。

「ま、確かに大体、そんな感じだな。取りあえず春花は、材料を切ってみてくれ。翔真、教えてやってくれ」


「はーい!」と翔真は取りあえず私に、包丁ほうちょうの使い方を教えてくれた。包丁のは、右手全体でにぎる。やわらかい物を切る時は軽く、かたい物を切る時は力を入れてしっかりと握る。これが基本的な包丁の持ち方だと。


 私は緊張しながらも、包丁を初めて握った。

「うん、持てた……。で、どう切ればいいの?」

「うん、ちょっと待っててね。今、四年生が野菜の皮をむいてるから……」


 小学生たちが昼食を作る場合、四年生が野菜の皮をむいたりする。そして五年生が材料を切って、ご飯もく。六年生が火を通して味付けをする、というのが通常の流れだった。だから少し待つと皮がむかれたジャガイモが、私の前にきた。


 当然、私は聞いた。

「え? これ、どうやって切るの?」


 すると翔真が、説明した。ジャガイモの上に包丁を当てて切る。翔真は前に押し出すように切っている。包丁を引く切り方もあるから、切りやすい方で切ればいいと。

 私は言われた通りに、包丁を前に押し出すように力をこめると、ジャガイモはあっさりと切れた。なので初めて包丁で野菜を切って感動したー、ではなく、少し拍子抜ひょうしぬけしたのが感想だった。

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