第28話 王子と再会

 現場に駆けつけた瞬間、スカルスカー男爵が気絶していた。

 尻にヤリを刺したまま。光るヤリはそのまま消滅し、天使の手に収まった。


「ヤリを磨くどころか、汚してしまいましたか」


『じゃがフォトンよ、魔王は倒したようじゃな』


「ですね。おやおや」


 だが倒した人物を見て、わたしは退散するかどうか悩む。

 男爵にとどめを刺したのは、てっきりカチュアだと思っていた。

 しかし、実際に男爵を仕留めたのは、フェターレ・ダメリーニ王子ではないか。


「おやおや、とんだ人間と再会しましたね」


『できるだけ、他人を装うのじゃ。フォトンよ』


「ええ。あなたも引っ込んでおいてください。レメゲトン」


『うむ』と、レメゲトンは自身を透過した。


「やはり無事だったか、フォトン」


「カチュアも、よくご無事で。そちらの方は?」


 わたしは、王子の方へ視線を向ける。できるだけ、相手のことを知らないとしておかねば。


 失神している男爵を配下に任せて、王子がこちらに歩み寄ってきた。


「ボクは、フェターレ。ダメリーニ王国の王子だ。此度の働きは、あなたの功績でもあるとか」


「とんでもありません。すべてカチュアと王子の実力のなせる業」


 ここで目立って、正体を知られたくない。


「あなたとは、どこかでお会いしたことがあるような気がするが?」


「気のせいです、王子様。わたしは、あなたのような高貴な方と、面識など」


「しかし、キミからはわずかにエンジェルレモンの香りがするのだが」


 しまった。故郷から持ってきた服は、ハーブ付きだったのか。普段から嗅ぎ慣れているから、意識していなかった。


「なにかの間違いでしょう。故郷では普通に生えている雑草ですので」


「そうか。キミによく似た女性を見かけたら、ギルドに報告願いたい」


「と、いいますと?」


「実は、ボクの想い人が亡くなったんだが、どうも生きているらしい。キミにとても似ているんだ」


 公務の中、わたしを探しているようだ。


「キミのような美しい女性は、他にはいないのだろうが、とてもそっくりなんだ。キミと違って、体の線は細い。だが、眼差しや佇まいなどは瓜二つと言っていいだろう」


「光栄ですが、見間違いです。お悔やみ申し上げます」


「ボクは彼女の死の真偽を知りたい。もし死んでいるなら、彼女を殺害した相手を見つけ出す」


 王子の瞳には、闘志が宿っていた。



 ここまで愛されているなら、さぞ美しいのだろう。

 それにしても、自分によく似た女性がもうひとりいるとは。

 フェターレ王子は、たしかゼム将軍の婚約者だったはず。本人は乗り気ではないと言っていたが、どうもその女性の影を追っているらしい。



 まあ、王子が誰と結婚しようが、どうでもいいのだが。



「旅に行くのだったな。引き止めてすまなかった。では」


 男爵の聴取に向かうため、王子はロプロイの城へ。


「フォトン、あんたも」


「いえ。わたしはこちらまでで」


「いいのか? 褒美は思いのままだ。なんならこのヤリだって」


 その必要もない。


 レメゲトンがすでに、戦った相手の力を取り込んでいる。聖殿のヤリの能力も、手にしていた。もう十分すぎるほどの、報酬なのである。


「しかし、一応は報告しないとな」


 結局、女王の待つ城まで行くことになった。



 わたしは女王から、ありえない程の金貨をもらう。世界中を旅しても、使い切れないかもしれない。


「こんなにいただけません」


「これでも、微々たる金なのです。いらないなら、必要な方にお渡しなさい」


「では」


「待ちなさい」


 立ち去ろうわたしを、女王が呼び止めた。


「旅をするなら、カチュアも連れて行ってくださいませんか?」


「よろしいのですか? わたしが、フォトンのそばにいても」


「ええ。カチュアには修行のため、旅に出てもらいます。なにより、そんなさみしげな顔をされては、あなたを一人になどできません」


「ありがたきお言葉」


 カチュアが、女王の前にひざまずく。


「もっと世界を知って大きくなって帰ってきなさい」


「はっ」 


「フォトン、カチュア。あなたにこの伝書を渡します」


 わたしは女王から、巻物を受け取る。


「これは、誰宛の?」


「北に住まうドラゴンに宛てた手紙です。ドラゴンの里に向かってください」


 ドラゴンにも危機を知らせてほしいと、女王はわたしに依頼してきた。

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