第11話 野盗撃滅

「あの猿人が、例の魔人のようですね」


『うむ。フォトンよ。あれぞまさしく、魔王サールジン』


 魔王レメゲトンによると、あれが魔王の一人で合っているようだ。

 わたしは、猿人へ向けて、三本同時に矢を放つ。

 だが、わたしの矢は人質である少女に向かっていった。


「な、人質に構わず撃ってきたですと!?」


 矢は少女をすり抜け、縄だけを切り取る。少女を抱き上げようとした猿人の腕を、撃ち抜いた。残った矢は、少女を囲んでいた賊の心臓にヒットする。 


「冒険者か。構うな、やっちまえ!」


 盗賊団が、曲刀を抜く。


 わたしは木から滑り降りながら、矢を放つ。立て続けに三発撃ち、盗賊の集団を倒す。


「なんてやつだ!? 攻撃が見えねえ!」


 切りかかった盗賊の頭部を、ゼロ距離で撃ち抜く。


「くそったれ!」


 盗賊の頭らしき人物が、馬からヤリで突きにかかる。


 ヤリを足からのスライディングでかわし、わたしは馬の後ろ足を蹴り飛ばした。


「おおおおお!」


 頭目が、盛大に飛び上がって落馬する。木に背中を、したたかに打ち付けた。


「早く起きなさい」


 少女の縄を解き、抱き起こす。


「助けに来てくれたの?」


「違います。この野盗を、役所に突き出してもらいたいのです」


 証拠の麻薬と取引書類を、少女に渡した。猿人を警戒しつつ、馬へ乗せる。


「行きなさい」


 馬の尻を叩き、走らせた。


 少女は一瞬こちらを振り返ったが、依頼を優先して馬を促す。


「ムダですよ。この森には数百を超える我が配下が、誰も近づけさせません」


 わたしは炎魔法を矢に施し、放った。少女が逃げていった方角へ。


「なにぃ……!?」


 猿人の見る方角で、森が燃え始める。虫型の魔物が、逃げ惑っていた。


「森ごと燃やしてしまえば、虫の魔物も何もありません」


「なんのためらいもなく、森を燃やしてしまうとは……すばらしい!」


 パチパチと、猿人は拍手をする。


「祖父・クーデ伯爵の手で森に捨てられ、ただ無為な日々を過ごしていました。だが、それも今日で終わりそうです。ようやく、退屈せずに済みそうですね!」


「クーデ伯爵ですか」


「ほう、我が祖父をご存知のようで? あなたも高名な貴族の方なのですかな?」


 わたしは直接、クーデ伯爵と会ったことはない。しかし、ゼム将軍の右腕であることは知っている。


「伯爵は若かりし頃、舞台女優を側室に招きました。しかし、二人の間にできた娘が、舞台のマスコットだったヒヒとまぐわったのです」


 思春期だった娘は、凶器のようなヒヒの性器に興味を持ってしまったらしい。


「結果、ワタクシが生まれました。関係が発覚した母はヒヒを殺害して、ワタクシを森の中へ捨てました。殺そうとしたのですが、刃が通らなかったのです」


「どうしてあなたを殺そうと?」


「母は、祖父とも関係を持っていたからですよ。祖父の子だと思っていたら、祖父よりたくましいモノを持つヒヒの子を身ごもっていたのですから」


 自分を捨てた母を殺したとき、殺人の衝動に目覚めたという。


 ゼム将軍は、彼を使うことに決めた。


 魔王と契約して仕事をすれば、ある程度の自由は保証しようと、持ちかけてきたらしい。


「二つ返事で、ワタクシは承諾しました。魔王と契約して、この森を支配し、若い女性を食べて過ごしております」


 女性を切り刻んでいるときだけが、生の実感を得られるという。


『とんだ倒錯者じゃのう?』


「人間の思考では、ありませんね」


 この猿人は、もう手遅れだ。生まれたことが、そもそも間違いだった。 


「ですが、気が変わりました。この世界は、まだ広い。あなたのような、聡明で強い方もいる。ワタクシは、外へ出ます! 強いものと戦い、力づくで女も奪うことに致しましょう!」


 猿人が、鉄柱のような腕を振り回す。


 わたしは、その腕を片手で軽々と受け止めた。

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