9日目

「......ぁふ......」



 ......これで、欠伸したの何回目だろう......


 そんなことを考えながら、私はふと、白い天井を眺めた。


 シミがぼやけて、なんだかぐちゃぐちゃして見える。あ、でもあれ、元からか......



「......」



 ......この時間、この時間が最近の私は大嫌いだ。寂しくって、かなしくって、辛い......今日はあの子も、春崎はるさきさんもいない。看護師さんやヘルパーさん達は他の人につきっきりで、今現在いろんな意味で落ち着いてる私のことなんかは、誰も気にしてない。


 それに、家族は......



「っ......」



 なんでだろ、今日はいつもよりもずっとかなしい。


 ......あの日、あの時、あの瞬間のことは、正直に言えば............辛かった。


 12月の、世間がクリスマスだ年越しだって騒ぎ立てていた、ちょうどあの頃。


 あの人達は、私をここに連れてきてすぐに、いっそ清々しいくらいにすっと帰ってった。あの子も、その中に混じってた。


 冬の寒さを凌ぐための服のせいで着ぶくれした、肩の荷を下ろしてせいせいしてる人達が歩き去っていく背中を、ときどきこっちを振り返るあの人達の顔を、私は見てなかった。


 その後ろの、遠く方の山のてっぺんに積もった雪を、笑って手を振りながら見つめてた。見てるしかなかった。



「......ふわぁ............」



 ......あの時の私は、あの人達のことを見ることができなかった。


 別に今思い出しても、別に怒りも恨みも、悲しみも私はしない。


 せいぜい怒るとしたら、誕生日くらいは自分でハンバーグ食べたいけど、食べられないことくらい。......って、これ別に誰も悪くないしな〜......


 ......今月は、あの子はまだ来てない。



「......忙しい、のかな......」



 もう水すらまともに飲めない私は、これから先......



「あー、やめだやめだ......これ以上、こうしてると......余計なこと、考えちゃう......」



 自分のほっぺたを弱く叩いて、私は本に視線を向けた。



「......早く、来ないかなー......」



 自分でもわかってる、残された時間はあと少し。


 ......今年の末が、関の山。......あってるよね、関の山で......


 とにかく、時間がない。私とあの子には......


 そう考えて、私は静かに目を閉じた。


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