第2話

最近では世間は何かと物騒な話をよく聞くようになったように思う、近くの町では不審な死体が見つかったようで捜索中であるらしいし、国際的にも平和であるとは言い難い。


「今日同じクラスの子が不審者に後をつけられてたって話を聞きました」


俺と一緒に夜ご飯を食べているのは私の同居人である茜ちゃんだ。

今は高校生で、この辺鄙な場所から少し離れた進学校に通っている。


「マジかよ、どこらへんだ?」


「アカマツスーパーあたりらしいですよ」


「おいおい結構近いな、気をつけて学校に行くんだよ、何かあったらすぐ連絡していいんだぞ迎えに行くから」


この子はとても賢いし、身内びいきとかではなく美人でとてもいい子だ。

けれどこの子と俺は血がつながっているわけではない、敬語だったり距離感がなんとなく遠く感じるのはそのためだ。

ルームシェア...まぁ同居人といった表現が正しいかもしれない。


「ある程度は人通りのある道が多いですから大丈夫ですよ」


「何かあったら叫びなさい、普通に叫んでも来てくれるとは思うが火事だー!って叫ぶといいらしいぞ」


「そんなこと言わなくてもちゃんと助けてくれますよ、こんな田舎じゃ叫んだりしたら目立ちますからね」


「田舎じゃなくても叫んだら目立つと思うぞ...」


「そうですね」


こんな風になんとなくぎこちないような会話を毎日しながら俺たちは食卓を囲んでいる。

自家製のサケの麹漬けはやはりうまいと思うが、うちの畑でとれた外国のよくわからない野菜シリーズの野菜はどうも雑草にしか思えない味をしている。よく見てみると茜ちゃんも食べるときは眉間に少ししわを寄せているようだ。


「この野菜はあまりおいしくないね」


「はい、雑草以上野菜未満の味と触感ですね」


「山菜と同じように一定数の好きな人はいるらしいんだけどね」


「私も山菜は好きですがこれは.....」


「うん、これは多分ウチの畑での育て方が悪かったのかもな」


「前に食べた黒みがかった青緑の野菜は好きでした」


「あれは見た目に反しておいしかったよね、あれは成功だったよ」


「すいません、胡麻ドレッシングを取ってきてもいいですか?」


「うん、俺もつけようと思ってたんだ持ってきてくれるとありがたいよ」


実はこうやって食事をしている間にも俺は卵が気になってソワソワしている。

卵をどうやったって早く羽化するわけでもないとは分かってはいてもどうしようもなく期待感が高まってしまうのは俺の質であるためどうしようもない。


茜ちゃんには得体のしれない何かを孵化させようとしていることは知られたくないので務めて平静に接していたつもりだ。俺のポーカーフェイスは結構ばれないことで有名だったのでばれてはいないと思うが。



~~~~~~~~~~~~~~~



「ふぅ....なーんかタノシソウデシタネェ...」


そう呟きながら台所にあった胡麻ドレッシングのボトルをつかむがその手には不自然なほど力が入っている、そしてその目には光がなく口には薄い笑みが浮かんでいた。


「何があったんでしょう?アレッテワタシニカクシテルヨネ?」


台所にあった包丁に目を移す、空いている手が伸びそうになるがそれを抑えて食事のテーブルに向かう。常人であれば絶対に気づかれることはなかっただろう斎藤のポーカーフェイスは彼女には見事に見抜かれていた。


そして.....

「はい、胡麻ドレッシングです。かけますよ?」


「お、ありがとうね」

テーブルに行くまでに完璧に切り替えられた彼女のポーカーフェイスには彼はついぞ気づくことはできなかったのだ。





洗い物や風呂を沸かした後、部屋に戻ってからは卵について調べてみる。

ジャイアントモアやエピオルニスなんて絶滅した陸生鳥類の卵は思ったよりも大きく、モアは24センチ4キロは超えエピオルニスは30センチ9キロにもなるそうだ。


流石にそこまでの大きさや重さではないのでそれらではないとは断言できる。卵の体積に対しての重量が異常なことは調べても全く分からなかった。そもそもこれが鳥類の卵だと考えるのもナンセンスかもしれないが、うちの畑にわざわざ産みにそんな大型の爬虫類や両生類は考えにくい。


「っていうか、そんなでかい卵を産むトカゲやらがいてたまるかよ....」


かのクロコダイルの卵でさえ鶏の卵よりも少し大きいくらいなのだ。爬虫類などは明らかに成体の大きさに比べて比較的小さな卵を一度に多く出産する傾向がある。


哺乳類や魚は論外としても脊椎動物で最も可能性があるのが鳥なのだ。それでもすりガラス状の殻を持つ卵なんて知らない。透けた卵で調べても酢漬け卵の話や光に通した卵の話ばかりでまったくどうしようもない。


一体ホントにこれは何なのだろうか?





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