ピット首相への手紙

でも、まだ俺の知識がそこまでまだ進んでいなかった頃、

俺がまだキリスト教徒であって、

キリスト教の安息日の神聖さを十分に感じていた頃、

俺にはスタンフォードでは

その安息日がほとんど守られていないように感じた。



―――そこで、

この問題に関して当時のピット首相に手紙を出そうという考えが、

その頃12や13歳の俺の頭に浮かんだんだ。

その手紙のなかで、俺はスタンフォード大学では

神の掟が守られていないということを述べ、

政府が安息日の遵守をより善い励行する

何らかの手段を取るようにとの希望を表白した。


俺はしばらくこの手紙を書いていた。

郵便でそれを送ってしまった後になって、

マックガフォッグ夫妻から、

「「一体何をそんなに夢中になっているのか?」」ときかれた。

「ピット首相へ手紙を書いていたのです。」

「ピット首相へ!?」

夫妻はびっくりして叫んだ――


「一体何であの方に書くことがあるんだ?」

俺は言った。



スタンフォードでは、大抵の人の安息日のまもり方があんまりひどすぎる、

ある者などはその日でさえ店舗を開いている、

そのことを書いたのですと。

夫妻は顔を見合わせて微笑んだ。


――しかし、俺にはそのとき、

それが別にびっくりするような、

変わったことだとは思えなかった。


それから8日だか10日だか経った後、

マックガフォッグさんは

ロンドンの一新聞紙をもってきて私に言った

――「おまえのピット首相への手紙の返事が出ているよ。」

俺は返事なんかこないもんだと思っていたので、

びっくりして真っ赤になってしまった。


一体どんな返事かときいた。

――マックガフォッグさんは言った

そりゃ「安息日を一層厳に行うべき旨を各派に勧告する政府からの長文の布告」さ、

と。

俺はもちろん大喜びに歓んだ。

全く自分の手紙がこうした結果を生んだものと思い込んで。


ところが、俺がその頃書けたような手紙は、

きっとひらかれてもすぐ反故箱に投げ込まれてしまい、

ピット首相の耳になんかは入りもしなかっただろう。


その頃行った俺の手紙はまったくただの偶然に違いない、


というのは今日覚えているところでは、

その布告というのは、

形式のそなわったよく考えた上で発せられた政府の文書であって、

おそらく俺の手紙が郵便局にさえいかぬうちに、

もうちゃんと決まっていたものであろうから。

とはいえ、とにかくそれは俺を喜ばし、

マックガフォッグさん夫妻を驚かせた。

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