騎士の洞窟

@gundamrwby

冒頭(前半)

『むーん。やっぱり違うんだよなぁ。』


スマートフォンの画面を指でスライドさせながら、前田(まえだ)アツキはぶつぶつ呟く。友達の勧めで剣と魔法の世界を舞台にしたMMORPGゲームについて調べていたがどうも気に食わないのだ。


『何見てんだ?お、あのゲームじゃん。お前もやるの?』


早速このゲームを進めてきた本人藤岡(ふじおか)ナオトがやってきた。


彼は中学の頃から連んでいる仲で、同じ高校に行ってからも偶然同じクラスになった。そのおかげでこの高校生活のスタートダッシュを安心して切ることができた。それくらい信頼してる。少なくとも自分は。


『確かに面白いそうなんだけどさ・・・・ねぇ、この映像や画像だけ見るとやっぱり違うんだよなぁ。』


『お前のだーい好きなロボや戦車とか出てこないぞ(笑)』


『もちろんSFと分けて見てるさ。一応ファンタジー系も好きなんだよ俺。でも・・・ねぇなんかもっと顔までゴツゴツした兜で覆った鎧の装備ないの?』


『は???』


『こんなにヒュンヒュン猿みたいに飛ばなくていいんだよ。もっと地面にしっかり足つけてどっしり構えるやつ。例えばこんな感じ。』


そういっていつも見てる海外のリアル風の騎士のゲームのトレーラーを見せる。


『うん、ないね絶対(即決)。仮にこんなタイプの役職出ても人気でないし、既存の役職のキャラでボコられそうw』


『おい、最後のあたりは取り消せよ。』


『お前ほんとフルフェイスのごついの好きだよね。あとリアル寄りの戦もの。』


俺、前田アツキはSF好き、そしてごついもの好きとしてクラスの中で異色を放っていた。アニメ好きというだけで、女子やスポーツ系の男子とは距離を置かれるのは当然のこと、さらにアニメ好きのコミュニティでも話が合わず、少し浮いてしまうのだった。


『だってぇ。かっこいいじゃん。そして強いじゃん。回避なんてもんは男の戦い方じゃないね。頑強な鎧を身につけたその体でドンと受け止めれなきゃ。』


『でも、リアル寄りになるとアクションとしてはスピード感ないから映像やゲームでは映えないだろ?』


『いや、俺はむしろアクションは重みがあってこそだと思うぜ。むしろ、あんなアクション俺には軽いすぎるよ。剣のつばぜり合いはもっとこう・・・なんていうか・・・とにかくあんな猿みたいにぴょんぴょん飛び回るだけのアクションは好かんのじゃ!!』


『それ言ってるのお前だけだぜ多分・・・。まぁ騎士がかっこいいっていうのはわからなくもないけど、あんな重くてしかも視界も悪いんじゃリアルでも微妙だし、ましては魔法のある世界じゃあっという間に灰にされるよ。』


『ふん!魔法なんて耐えようと思えばいくらでも手段があるだろ。だって・・・・・』


こんな会話を目の前の(友人)や他の数少ない貴重な友達に語っている高校生活・・・・。


まぁ少し虚しいよね。人間って一人じゃ生きられないって言うけど、それは人間は群れる生き物で、それぞれ役割分担をして、働いて、社会を作って支えるからっていう物質的な理由と、誰かとコミニケーションを取ったり自分と共感してくれる相手が欲しいからなどの精神的な理由の二つがあると思っている。


そして俺の場合は後者、精神的に生きていくことに支障を抱えているのだ。ほんと、贅沢な悩みだとはつくづく思う。家族だってちゃんといて、障害も何もない健康体で毎日ママの美味しい飯を食ってる。


今日本の経済が不景気だの貧困層がなんだの言ってる割には裕福な暮らしを送れているんだろう。


ただ、何かが足りない?最近そう思えてきた。


中学までの頃は自分の癖の強い趣味で目立ってそれを自分のアイディンティティーとして誇りに思っていた。


他人から変だとからかわれても、そんな自分を肯定し続けていた(まぁそのからかいにキレて殴ってたりしたのは別に問題があるけど。)。頑固で少し捻くれた理論で達観していたが、そんな自分でいていいと思っていた。


でも高校に入ってどうだ?何か寂しい、何か足りない。そう飢えながらいつも好きな曲を聴いて布団にくるまってた。


眠る前に自分のことについて考える、それを言葉にして客観的に見ると、うん、どうしてもこいつクズじゃね?となる。ただ、自分の好きなコンテンツにすがって威張ってる醜い子供だ。そして、子供から大人になってもっと醜悪になるのだろう。


自分の好きな癖の強いアニメや作品を今まで色んな人に語ってきた。それが最近になって虚しくなってきたと思えてきたのは、あくまですごいのはその作品達であってそれを知ってるだけで自分はすごい、特別だと自分が自惚れていることに気づけたからだ。


これに気づけただけでもまだマシなのかもしれない。でも、もう手遅れのようにも感じる。運動も微妙、勉強はまあまあ、その趣味以外に取り柄がないのだ。自分勝手で頑固で中身が好きなアニメ以外空っぽとか、終わってる。こんな自分が誰かに好かれるなんてってだんだん思うようになる。


そうするとふと家族やナオト達のことが頭によぎる。


あいつは俺の長話になんで付き合えるんだろ?なんで一緒にいてくれるんだろ?


俺の両親はこんな俺をどう見てるんだろ?


毎日飯だけ食って家でダラダラしてる俺をどうおもってるんだろ?


親が今まで育ててくれた分に値するほど俺は将来働いて返すことができるのかな?


そうやって考えるたびに他人の目が怖くなる。明日を迎えるのが怖くなる。そして気づいたら眠っていて朝になる。寝る前に考えてた情報は残り、その時湧いた感情はふとんの中に置き去って高校に向かう。


変わらないといけない。折角の高校生活だ、もっと色んな人と知り合って仲良くなってできることを増やさないと。


誰かから好かれたり、認めてもらったりするために。


頭の中ではわかってるのに。でも、なぜだろう今のままでいたいと思う自分もいる。変わるために努力するのをめんどくさく感じる怠惰さ、過去の自分を全否定することを拒絶したがる頑固さが阻んでいるのだ。


心の中でこんなどうしようもない醜い葛藤を抱えながら、平気な顔して高校生活を送っている。


でも、そんな葛藤を一瞬忘れさせてくれる人もこの高校にはいるのだ。

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